アポロは月に行っていない!?
世の中には、いかにもそれらしい理屈をつけた「陰謀論」や「歴史に隠された真実!」というサイドストーリーがたくさんあります。
例えば、「アポロは月に行っていない」「9.11はアメリカの自作自演」「3.11は人工地震」というのもその一つ。
人はなぜこういう荒唐無稽なストーリーを信じてしまうのでしょうか。
今回は2つのキーワードから読み解いてみましょう。
1つ目のキーワード:「秩序」
ここで、ある実験を紹介します。
ある部屋に被験者を集め、グループAとグループBにランダムに分けます。
そしてそれぞれ散らかった机に座らせ、グループAの被験者には「机を綺麗にしてから」ある作業をするように命じ、グループBの被験者には「机が散らかったままで」ある作業をするように命じました。
そして作業が終わった後に被験者全員に「あるシミ」を見せます。
するとグループAの人達は「単なるシミ」と認識したのに対し、グループBの人達は「幽霊だ!」と認識する割合が高かったのです。
ここでポイントとなるのは「自分で秩序を作り出せているかどうか」です。
秩序が混沌としたままのグループBは、憶測で物事を判断しがちになります(つまり、ここが陰謀論を信じることにつながります)。
脳は曖昧さが嫌いなので、分からない事があると適当にストーリーを作って空白を埋めてしまうのです。
そこで関係してくるのが、次に紹介する「ヒューリスティック」という言葉です。
2つ目のキーワード:「ヒューリスティック」
「ヒューリスティック」は、行動経済学でよく使われる言葉です。
簡単な言葉に言い換えると「思い出しやすさ」になります。
例えば、こんな質問に答えてみて下さい。
Kという文字を思い浮かべて下さい。
Kは、単語の先頭(1文字目)にくる時と、3文字目にくる時とでは、どちらが多いでしょうか?
英語の苦手な人でも、kind,king,kick,knowなど、1文字目はたくさん思い浮かぶと思いますが、3文字目は「…………?」となりがちですよね。
ですので、当然「Kは1文字目に来るケースが多いのでは」と感じます。
でも、KだけでなくL、N、Rといったアルファベットも、実は先頭の文字より3番目に来るケースの方が多いのです(これを、「利用可能性ヒューリスティック」といいます)。
また、ある男性A氏をこのように描写したとします。
「Aさんはとても内気で引っ込み思案です。頼りにはなりますが、基本他人に感心がなく現実の世界にも興味がないようです。もの静かで優しく、秩序や整理整頓を好みます」
皆さんはこのAさんの職業は、司書だと思いますか? それとも農家だと思いますか?
この場合、Aさんの性格は司書のイメージとぴたりと一致するので、多くの人は「Aさん=司書」と思いがちです。
でもそこには、米国では男性の司書1人に対して、農業従事者は20人以上いる、という事実が抜けているのです。
統計的事実から言えば、Aさんは農家の人である可能性の方が圧倒的に高いのです(これを単純化ヒューリスティックと言います)。
まとめ
私達は、神秘的なストーリーや怪し気なストーリーが大好きです。
でもそのほとんどは真実ではなく、あなたの脳が「曖昧さ」を「ヒューリスティック」を用いながら創作しているに過ぎません。
(私が何年か前に読んだ本では、「トースターから出て来たパンの焦げ目がイエスの顔にそっくりで、イエスが降臨した!」と騒ぐ人の例が取り上げられていました)
気を付けなければならないのは、本人にとって自分が創作したストーリーは限りなく「真実」に思えること。
陰謀論だけでなく、「あの人は、あんな事をしているに違いない!」という事実無根に基づく対人関係のトラブルも、大きくとらえれば同じプロセスを辿っています。
怪し気な話に引っかかりそうになったら、客観的な統計や統計を調べて、「真実」と「思い込み」をしっかりと区別して下さいね。
参考資料
『ファスト&スロー』早川書房 ダニエル・カーネマン
NHKBS『幻解!超常現象ファイル』
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https://www.el-aura.com/writer/2012102201/?c=17188