伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第28話~狐眷属『甚六』。絶賛だった“独演会”。実はまさに狐に“ツママレタ”裏話があった~

前回『甚六』の独演会に、集まった眷属たちは「そーかー。」と素直に共感して夜が更けました。ところがこの独演会。実は裏話があったようです……。狼眷属『グラウ』の登場で事態は急変します!

 

翌日の昼、隣区の祭りの警護から戻った狼のグラウが祠を訪ねると、寝ぼけた感じの狐の甚六と猫の『ちゃ』が、陽だまりの猫みたいに地面に寝転んで、ゆる~い会話をしているところだった。

いつもなら、祠の手前で「やぁロクさん」と、木からミノムシみたいにぶら下がったり、マンホールからびっくり箱みたいに出てきたり奇襲めいた挨拶をしてくれる甚六が、自分の接近に気づいていないのは奇異に感じた。まして『仕事中』は行儀の良さにこだわる稲荷狐が、地面に寝転がる事もありえない。


【後輩眷属大絶賛の甚六の独演会……しかし本人の様子が……?】

甚六がぼやく。
それは、ワタシじゃないよ。昨夜は神様の用で祠を留守にしたよ。勉強会なんてしてないよ。さっき徹夜明けで帰える道すがら、界隈の稲荷眷属に『昨夜のお話は早速実行中です。』なんて言われたけど……その事か?」

「いつもと感じがちがうなって思いましたけど、みんなすごく満足して……。解散の後は尻尾に包んで寝てくれていつものロクさんでした。」
『ちゃ』がそう言うと。『寝ぼけていた』ならぬ『徹夜と疲労で思考がスローになっていた』らしい甚六が地面から飛び起きた。

「ニセモノめ、ちゃーくんを抱いて寝やがったってぇ。」
「よせよぉ。女を寝取られたおっさんみたいなセリフ。」

甚六は静かな狼の声で激昂仕損なったようだ。同時にグラウが来ていた事に今気づいて、気が抜けた声で挨拶する。
「あ。グラさんおかえり。」
祠に沿ってきちんと座り直した。いつもの狐眷属の姿勢だ。

狼は銀灰色の毛をわずかに逆立てると、仔猫に聞く。
「ちゃーくん、長老いたか? 昨日。」
「あ。いませんでした。」『ちゃ』が答える。

「長老か?……まだ断定できないけど、強い霊力で幻惑されたね。」

 

【またしても“招かれざる客”? 長老狐の登場……】

「なぜ?」甚六が言いかけた言葉に、聞き慣れた癖のある言い回しが割り込んだ。

「それはねぇぇ、君たちが不得意な恋愛だの結婚だのの解決スキルを上げてあげようと思ってねぇぇ。ちょっと甚六殿に化けさせてもらったんだねぇ。」
甚六、グラウ、ちゃ、三匹の目の前にアニメのおばけ登場みたいな演出で長老狐がボンっと現れた。

 

甚六は珍しくわめいた。

「なんで『ひと』の留守に『ひと』のフリする。うちの『ちゃ』になにをした。」
「なにもぉ……。」
『ちゃ』がすまなそうに口を挟むと、長老は目をにゅーっと細めて不遠慮に『ちゃ』を尻尾で撫でると、語り出した。

「狐は狼と付き合うと義侠心が強くなる分、言葉が荒れるのかねぇ。狼殿も甚六殿も短気は損だねぇ。そのうちに、街中の眷属たちから、『講義のとうりに人間を導いたら素敵な伴侶と暮らし幸せになりました。』と、の報告が押し寄せるんだからねぇぇ。感謝して欲しいねぇ。」
それに……。甚六殿、『ワタシはおまえさんで、おまえさんはワタシのようなモノ』なのさ。
仔猫がニセ甚六のワタシを見破れなくても当然さねぇ。」

「なに それ。『のようなモノ』なんて、擬態している虫? 鳥糞のようなモノに見せかけて身を守る蝶々の幼虫はいましたよ。」
わざと論点を外して動揺を隠すつもりが的確な言葉が出ない甚六に代わり、グラウが長老に質問した。
「おたくの正体はなんなのか、ロクさんやわたしにもっと教えてくれてもいいだろう。」

 

【甚六の姿を借りて(?)皆を困惑させる、長老狐の正体とは?】

すると長老は、にゅ~と目を細めて真昼の空を仰ぎ、
「『おたく』だなんて、前もワシをそう呼びなすったが、狼殿の依り代は《平井和正》でも読んでいたのかねぇ? まあいいか。狼殿の友達が動揺して気の毒なのでね、早いとこ答えようかねぇ。この前、おまえさんたちの記憶を呼び戻したのも、400年程前、天海僧正をお助けして太刀の鞘の封印を解かせたのも、ワタシが神様の意を受けて導いた。
ワタシは木花咲耶姫さまの富士の御神体の溶岩と噴煙から生まれた『炎の精霊の狐』。
この世の栄える未来を守るためにたくさん存在する意識を持った光のひとつさ。

日本武尊さまの御身を守った『炎』として活躍した功績で、神様から『望むものを賜われる』事になったとき、三柱の神様をお産みになられた木花咲耶姫さまのように、親というものになってみたいと望んだのだよ。

木花咲耶姫さまは仏教伝来の後に、同じ慈悲の波動をもつ浅草観音さまとも繋がっておられるのをご存知かね、『力』のある『光』は、同じ意思と同じ波動をもつ者に分魂もできるし、繋がることができる。この世を守る勇気ある者を守ろうとした者どうしは繋がる事ができる。融合という言葉を借りても良いのだが、各々の個性や意思はそのまま保たれるからねぇ。

おまえさんこそ、その昔に神様がワタシの炎からミタマワケして誕生させた『意識を持った光』。だからワタシはおまえさんであり、前世もしくは親に相当するんだねぇ。肉体のある生き物みたいに付きっ切りで育てることは無いにしても、先輩として導きたいし、ピンチがあれば救いたい。

ワタシが日本武尊さまをお守りしたように、おまえさんが平将門さまをお守りしたのも何かの因縁かもしれん。おかげでおまえさんとは、この世を守る勇気ある者を守ろうとした者どうしとして繋がる事ができている。だからワタシはおまえさんでおまえさんはワタシなのさ。

 

「初耳すぎる。」
甚六は困惑し尽くした。『おまえさん』に呼称が変えられた事に突っ込む気もしない。

「まぁ、事実なんだろう。今までもわたしたちの記憶に無い過去とか、教えてくれたわけだから。ロクさんが長老から生まれたとしても気にすることは無いさ。人間の輪廻転生も、縁や傾向は引き継ぐが、前世の自分と現世の自分は別物だろう。
グラウは遠慮してこの場から去ろうとしたが、長老はそれを見透かした感じで、
「狼殿。」グラウに声をかけた。

「グラウです。長老さま。いい加減覚えてく……」
長老は狼の穏やかなくちごたえが終わらぬうちに、
「昨日甚六に化けて語った事、次からの集会で時間を潜って検証して、『結婚に関する願い』の叶え方を、界隈の眷属同志で学び会得しあうように。これは浅草観音さまの直々のお申し付けでもあるのでねぇ。」の、言葉を残して消えた。

「なに それ。」
狼は友と同じセリフを祠の上の、ビルの隙間に見える夏の空に呟いた。

 

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