静けさのもたらす効用を描いたドキュメンタリー映画『静寂を求めて 癒しのサイレンス』名古屋にて今週末から上映!

日常にあふれる人工的な音やノイズが
身近にあって当たり前になっていませんか?

かつて都市生活者の夢といえば、安らぎのマイホームを得ることでした。
現代ではどうでしょうか? 

都市生活者の多くが“得がたい”と実感しているもの、それは、心に真の安らぎを与えてくれる「静寂」なのかもしれません。

東京生まれの東京育ちの筆者は以前、『アイソレーションタンク』と名付けられた、母胎内体験をさせてくれるセラピーマシンを体験したことがあります。
その装置は操作によりタンク内を「完全なる無音」「漆黒の闇」の状態にすることもできたのです。
そんな状態は未体験ですので、その状態のタンクに入ってみました。
すると、一切の音と光が遮断されたその直後から、不安と恐怖に襲われてしまい、逃げ出したくなったことをよく覚えています。

生まれて以来、自分の心身がいかに、ノイズを含む日常の音や不夜城のように差し込む光に馴染んでしまっていたかを思い知らされた体験でした。
日常にあふれる人工的な音や光があって当たり前で、それらが心の安定剤であるかのように錯覚していたのです。
その後、瞑想体験などを通して、「心の声を遮断するノイズ・騒音に慣れてしまうことは、決して健康的なことではない」とも気づかされました。

 

なぜ現代人に「静寂が必要なのか」を伝える
スピリチュアルなドキュメンタリー映画

(ノイズや騒音があって当たり前の都会生活)

これからご紹介するドキュメンタリー映画、『静寂を求めて 癒しのサイレンス』(パトリック・シェン監督作品)は、そんな「静寂」をテーマにした作品です。

世界 8 ヶ国(アメリカ、⽇本、イギリス、ドイツ、ベルギー、中国、台湾、インド)から、さまざまなコメンテイターが登場し「静寂とはなにか」「なぜ、現代人には静寂が必要なのか」などを、それぞれの立場から語り掛けてくれます。

映像面では、訪れた8ヶ国から、地球上最も静かな⽶国ミネソタ州のオーフィールド研究所(-13dB)、世界で最もうるさいインド、ムンバイのお祭り(107.8dB)の他、アラスカのデナリ国⽴公園、京都の裏千家でのお茶会、電⾞の騒⾳に悩まされるニューヨークの⼩学校、BMW の「⾳の城」と⾔われる騒⾳軽減研究の現場、修道院や禅寺、作曲家ジョン・ケージの沈黙の曲「4 分 33 秒」のコンサートシーンなどが登場し、ノイズと静寂が生み出す空間の違いを対比させています。

 

インド哲学や禅、易経の思想などを
音楽に取り入れたジョン・ケージ

(京都の裏千家でのお茶会シーンより)

本作に登場する多数のメッセンジャーより、二人をご紹介しましょう。
まず一人目が、米国が生んだ現代音楽のレジェンド、作曲家のジョン・ケージ(1912年9月5日~1992年8月12日)です。
ケージはクラシック音楽を学んだだけでなく、インド哲学や禅、易経の思想やキノコを中心とした自然の動植物などからも得たインスピレーションを創作活動に反映させたユニークな作曲家であり、アーティスト、哲学者です。

いちばん有名な作品は前述の「4分33秒」。
この曲で演奏者がすることは、正確に4 分 33 秒を計測すること。
楽器の音は出してはいけません。

その4 分 33 秒間に生まれるさまざまなノイズ(聴衆の咳払いなど)や偶然性(鳥が鳴いたり工事音が発生したりなど)も含めて、そのすべてを音楽としてとらえるという「沈黙(サイレンス)の音楽」です。

(路上パフォーマンスで「4分33秒」を演奏するジョン・ケージ)

本作には、そのコンサートの様子や沈黙・静寂に関するケージからのコメントが、貴重なインタビュー映像から抜粋され収録されています。
ケージは「沈黙の中心には神がいる」と語ります。
その神に会うため、ケージは大学の無音施設にこもります。
そして沈黙に耳を済ませた結果、「二つの音」と出会います。
それはどちらも体内を循環する命の鼓動でした。
完全なる沈黙の中で、音=神=生命に出会えたことは、ケージに大きなインスピレーションを与えます。
つまり、ひとはそれぞれ、沈黙の中で自分の神と出会うという、沈黙の大切さを実感したわけですね。

 

最新の森林浴効果研究が明かす
静寂がもたらす心身への好影響とは?

もうひとりの重要なメッセンジャーが、千葉大学 環境健康フィールド科学センターの宮崎良⽂教授です。
宮崎教授の研究グループは、環境に対する⽣理機能の反応を調べています。
中でも森林浴効果が専門で、こんな結果が出ているそうです。

「森林内をゆっくり歩いたり、座ったりした場合、都市部で同じ活動をした場合に⽐べて、リラックス時に⾼まる副交感神経活動は上昇し、 ストレス時に⾼まる交感神経活動は低下した。ストレスホルモン(コルチゾール)濃度や⾎圧も低下し、 脳の前頭前野(前額部)活動も鎮静化し、体は⽣理的にリラックスすることが明らかとなっています。⼈の体は ⾃然がもたらす『静寂を求めて』いるのです」(宮崎教授)。

(森林浴効果の最新研究について語る宮崎良⽂教授)

もちろん森林浴では、木立の香りなど、いろんな要素が心身に働きかけてくれるのですが、「静寂も重要な要素のひとつ」であり「静寂は病気を未然に防ぐための免疫力を高める効果にもつながるはず」と宮崎教授は教えてくれます。

本作には他にも、全⽶を徒歩で沈黙の誓いを⽴てて踏破した“サイレント・ウォーカー”や、企業が製造する製品の騒音チェックを行い、ノイズが規定規準より下回る製品に認証マークを発行する会社の取り組みなど、都会に静寂を取り戻そうと奮闘努力する人たちの様子が描かれていきます。
本作を観ると改めて、静寂に身を置くことの大切さを痛感します。
「静寂について考えてみたい」という方は、ぜひ、本作をチェックしてみてくださいね!

 

愛知県・名古屋シネマテークにて
12月 8日(土)~12月19日(水)公開
http://unitedpeople.jp/silence/scr

プロデューサー:パトリック・シェン、アンドリュー・ブロメ、ブランドン・ヴェダー
出演者:グレッグ・ヒンディ、宝積⽞承、ジョン・ケージ、奈良宗久、デイヴィッド・ベチカル、宮崎良⽂ 他
81 分/2015 年/英語・⽇本語
配給:ユナイテッドピープル 原題:IN PURSUIT OF SILENCE
作品公式ホームページ:http://unitedpeople.jp/silence/
掲載画像(c) TRANSCENDENTAL MEDIA