一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.270「正欲」

正欲

正しい欲望は人それぞれ正しい

多様性って声高に言うもの?

見終わって、考えてしまった。ここ数年やたら声高に叫ばれるようになった多様性(ダイバーシティ)、SDGs、LGBTQ、ジェンダーギャップ……。これらは流行りなので、とりあえず了承把握しとかないと。認めてるフリしないと。みたいな風潮があることは否めないのでは。特に大企業とかは敏感に反応してるようだし。でも、それも世間の風あたりが強いからか……。

でも、多様性っていわれても個人レベルでは、「はあっ」って感じだ。当たり前のことだけど、いろんな人がいての世の中なんだし。そのいろんな人をすべて理解するなんて無理だし。そういう人もいるのね。でも、排除はしないようにしよう。でいいと思う。結局はみんなひとつなんだし(魂はつながっている)。本作はそんな自身の姿勢や考えを問われるようなシリアスな問題作である。

正欲


たくらみのような巧妙な脚本

一条の光に救われるラスト

ある嗜好によって、孤独感を募らせている販売員の女性。その彼女がずっと気にかけている中学の時に転校した同級生の男性。彼が地元に帰ってくる。検事の男は息子が引きこもり、ユーチューバーになるというのを応援する妻と衝突しがちの日々。男性恐怖症の女子大生はダイバーシティをテーマにした学園祭イベントを企画。そこで出会ったダンスサークルの男子学生に惹かれていく。

三つの話、5人の主要人物の話が別々に語られていき、最後に衝撃的に交錯する。これは巧妙なたくらみのような脚本だ。辛い展開ながら、でも一条の光は残されている。


正欲

新垣、佐藤、東野に注目!!!

誰かと繋がる第一歩を怖れないで!

驚いたのが、新垣結衣が「えっ」と言う演技を見せていることだ。演技派開眼か、際どい演技に挑んだ姿勢に拍手。また、彼女の演技にうるうるさせられた。誰とも繋がれないと思っていた販売員の女性がやっと見つけた理解者。その喜びの表情に泣きそうになった。理解されないと分かっていても、やはり人は誰かと繋がりたいのだ。

また、本作で一番の収穫は男性恐怖症の女子大生を演じた東野絢香とダンサーの男子学生役の佐藤寛太だ。映画初出演の東野。まんまそこらにいそうなおどおどした暗い女子学生そのまま。すごいリアル加減。異常に巧い演技に釘付け。そして佐藤。物凄いハンサムでダンスも超巧い(ってEXILEですと)。これはこれから出てくるぞーって大物感が半端なかったよ!! このふたりは俄然今後も大注目です!!! ダンスシーン素晴らしかった。もっと見ていたかった……。

さて、ラストに残された一条の光。その光が大きくなればいいと、切に願った。言葉だけじゃない、本当のダイバーシティはそれぞれの中で培っていくものだから。誰かと繋がることを怖れないことが大事。

監督・編集 岸善幸 

脚本 港岳彦

原作 朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)

出演 稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇斗 佐藤寛太 東野絢香 山田真歩 宇野祥平

渡辺大知 徳永えり 岩瀬亮 坂東希 山本浩司

©2021 朝井リョウ/新潮社  ©2023「正欲」製作委員会

※134分

※11月10日(金)、全国ロードショー!





  

  

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