一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.269「キリエのうた」

キリエ

13年間の3人の青春と堕落と後悔と悼み

かけがえのない日のキラメキまぶしく!!

岩井俊二監督の新作。178分。長さにひるんだが、行かねば。だって岩井俊二作だから。でも、アイナ・ジ・エンドって誰? まあ、広瀬すず出てるし、彼の映画はいろんな役者がちょい役ででてるから楽しいしな。と試写に、前日8時間寝て出かけた。そして、約3時間。寝ませんでした。

相変わらずの岩井ワールド。少女マンガノリの話が展開されるが、そこには震災の記憶も挿入され、過去と現在が行き来して、見ごたえのある一作となっていた。3人のメイン登場人物の、それぞれリンクしていく13年間の話を追いながら3時間、物語の波にただよった。

キリエ


声を失った少女、歌声だけは残った

奔放に暮らす女、後悔を背負う青年

話は、何も喋らない少女が少年たちのザリガニ取りを見ているシーンから始まる。場所は大阪。少年たちの関西弁が軽快だ。少女はどこから来たのか? 家族は? なぜしゃべらないの? そして、場面は路上ミュージシャンに目を留め立ち止まるパリピぽい女性の映像に切り替わる。

そのミュージシャンは歌は歌えるけど、声は出せない。名前はキリエ。パリピ女は真緒里。どうやらキリエのことを知ってるみたいだ。真緒里はキリエを自分の家に連れて行く。そしてマネージャーをやると言って売り込みを開始するのだが……。

キリエと真緒里の話が前半語られ、中盤からキリエの過去の話になり、松村北斗が加わってくる。キリエはなぜ喋れないのか? 真緒里は何をして暮らしているのか? 徐々に謎があきらかになり、悲痛な記憶が語られる。


キリエ


アイナ・ジ・エンドの衝撃の歌声に震えた!!!

そして広瀬すずの美しさに浸った……。

岩井俊二監督の出世作「スワロウテイル」が頭をよぎる。「Love Letter」の雪のシーンも。情緒あふれる映像は見ているだけで切なくなってくる。そこへかぶさるアイナの搾り出すような歌声!!! 本作で私が一番感動したのはアイナの歌声である。すごい……!!! 

聴いた全ての人の時を止め、彼女の前にひれ伏すのではないかと思うほどの心掴まれる歌声! 歌手になるために生まれてきた人間。魂を散り散りに投げてくるような叫び!! おおーっこんな凄い歌手がいたんだー!! と驚愕!! ちょっとUAみたいなハスキーでスモーキーでウィスパーボイス。Charaぽくもある。彼女を知れたことは一番の収穫。

そして、もう一つは広瀬すずの美しさを堪能したことである。アップ多数。ほんとうに完璧に近い左右対称の顔。雪の中に横たわる顔のアップは美術品のようだった。見終わって、私は広瀬すずになりました(笑)。

また、美しい広瀬すずに対してアイナだけど、彼女は造形的には広瀬すずに劣るも、なんと彼女は素晴らしいフォトジェニーだったのです。広瀬とはまた違った意味で美しい。いつまでも見ていたい顔と体を持っている女優。アイナはこれからもどんどん映画に出て欲しい!! 凄い逸材だと思う。さて、どっぷり3時間。時間を作ってこの美しくも苦い物語を味わって欲しい。

監督・脚本・原作 岩井俊二

出演 アイナ・ジ・エンド 広瀬すず 松村北斗 黒木華 村上虹郎 松村祐也

笠原秀幸 粗品 矢山花 七尾旅人 大塚愛 ロバート・キャンベル 安藤裕子

※178分

※10月13日(金)から全国ロードショー




  

  

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