一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.241 「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」

デニスホー

人気歌手の転身に教えられること
声を挙げて得たものと失ったもの

香港は初めて行った海外で、ハマッた国だ。
香港映画祭や観光で計8回訪れた。
友人がいたこともあるが、なぜこんなにハマったのか、それは前世に香港の山の上で暮らしていたかららしい。
たぶん、ビクトリア・ピーク。
初めてピークに登った途上、凄まじい既視観に襲われた。
「あ、ここ知ってる私」と自然に思った。
ということもあって、香港への不思議な恋情はいつもあって、ここ最近の香港の様子に気をもんでいた次第。
香港に住んでいた友人もコロナで帰国してから日本で閉じ込められている状態だ。
だから、本作は胸が痛く、始まってから涙が溢れてしかたなかった。
香港で闘うデニスや人々の姿に何度も胸が熱くなった。
そういえば、私は前世、香港の山の上で抵抗勢力と闘っていたそうだ。

デニス・ホー。
しかし私は彼女のことを知らなかった。
大歌手アニタ・ムイに憧れて歌手になったモントリオールに住んでいた整った容姿を持つ多感な娘。
彼女はのちに同性愛者であることをカミング・アウトする。
私はレスリー・チャンの大ファンで、レスリーも同性愛者で彼は2003年ホテルから飛び降りて自殺した。
デニスはレスリーとも親交があったようだけど、私も香港から遠ざかっていてデニスが香港で不動の人気を確立した歌手と初めて知った。

デニスホー

 

デニスのぶれない行動に感動!!
舞台上では泣き出す感情豊かな歌姫

映画は、デニスが2014年の「雨傘運動」に参加、その後も香港人の自由を訴えてデモに参加し逮捕。
中国政府に睨まれブラック・リストに載り、仕事がなくなり超有名歌手から活動もままならない状態になる過程を丁寧に追う。
2019年の「逃亡犯条例改正」にも抗議してデモに果敢に参加。
仕事が減ろうが、逮捕されようが、彼女はぶれることがない。
しかし、その行動にスポンサーは降り、友人も離れていき、中国はもちろん、香港国内でもコンサートが出来なくなる。
彼女は小人数で海外での小さなコンサートを続けだす。
ギター一本を持って、舞台では涙で歌えなくなったりして、もう見てるこちらも涙涙だ。
きっと胸は張り裂けそうなくらい辛く苦しかったのだと思う。
でも、デニスは淡々と自身の目覚めとそれによって喪失したものの過程を話す。
もちろん得たものもあるのだが、それはこちら側にゆだねられる。
彼女の行動を見て、私たちが何を感じるか、ということが一番大切なことだろう。

デニスホー

 

おかしいことには私たちも声を挙げよう!
魂が腐らないためにも!!

デニスが大歌手になって師匠である故アニタ・ムイの影響でど派手な衣装の大仕掛けのコンサートを続ける内に、虚無感に襲われアニタがやっていた社会貢献を自分はやれているか? と思いだす。
その目覚めに感動する。
反対だ、と口で言っていても中国政府が怖くてデモに参加しない、声を挙げない芸能人や人々がほとんどだろう。
このデニスの強さは彼女の使命に裏づけられたものだ。
キツイ目と意思の強そうな形のいい唇。美しい闘士の顔である。
彼女の一挙手一投足から目が離せない。
髪型も素敵だ!! 欲を言えば、彼女をプライベートでも支える人たちをもっと出して欲しかった。
でないとあまりに孤高の闘いのようで救いがない。
デニス、もっと若いと思ってたけど、現在44歳。
これからも彼女の行動は注目だ。

しかし。と思う。
これだけのデモや反対があっても中国政府の姿勢は変わらないのだろうな。
時間がかかるのだろう。でも、何もやらないと皆腐っていくのだ。香港は腐っていく。
そうしてはならない。これは日本でも同じだろう。デニスの姿に教えられるものは多い。

 

デニスホー

 

監督・脚本 スー・ウィリアムズ
出演 デニス・ホー アンソニー・チャン アニタ・ムイ ハリス・ホー
ⒸAquarian Works,LLC
※83分
※7月23日(金)から関西ロードショー

 

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