一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.239 「夏への扉 —キミのいる未来へ—」

夏への扉

SFの古典、完全初映画化!!
30年後の未来は必ず今よりいい世界になる!

ハインライン原作ということで、きっと面白いんだろうな、と思っていたらやっぱり面白かった。
SFの古典的な作品で、今回初映画化ということはちょっと意外だった。
タイムトラベルものなんだけど、伏線が張られていて最初からしっかり観ておくことをお勧めする。
中盤展開が読めなくて、でも後半に謎が解けていって、気持ちよいカタルシスを感じた。
脚本、よく出来てるなあ~。
ちょっと一箇所、んっ? というとこがあったんだけど、それは原作を読んで解決しますか!

1995年、科学者の宗一郎ロボット開発の研究に没頭していた。
学者バカで経営や特許関連、お金のことにはとんと疎く、婚約者の白石鈴に全て任せていた。
今は亡き養父の娘の璃子をほんとうの妹のように可愛がり、猫のピートと穏やかな日々を過ごしていた。
しかし、養父の弟の罠にはめられ、会社の権利やロボット開発の特許や資料一式騙し取られ30年間冷凍睡眠させられてしまう。
そして、30年後の2025年。
目覚めた宗一郎は愕然とするが、とにかく璃子の所在を求めて病院を抜け出す……。

夏への扉

 

タイムトラベルの謎解きが驚きに満ちて
時を越えたラブ・ストーリー

今、2021年だけど、30年前の1995年の映像になにかほっとさせられるものがある。
懐かしい思いで観た。そして、2025年の映像。近未来的な描写もあるけど、今とあまり変わらない。
でも、とげとげした感じが映像からも伝わる。畑や田んぼや樹や木造の家はどこへ行ったんだろう。
その近未来で宗一郎はロボットのピートと行動する。
藤木直人のロボットがなんかリアル。端正な顔がぴったりだ。
タイムトラベルのからくりを堪能できる展開は「なるほど」と種明かしが楽しい。
「そういうことか……」とオープニングシーンを思い出して反芻する。

夏への扉

 

30年て、意外に短いのでは?
自身の30年を振り返る

30年間眠り続けて、目覚めた時に愛してた人はどうなったのか? それだけで物語になると思う。
相手は30年間の間にどう変わっているのか? 自分の方が若いままで、歳とった相手を愛することができるのか?
本作はロマンチックなラストを迎えるけど、相手の30年間の変化はそれはそれで面白いのではないかと思う。
素敵な中年になっていたら、自分の見る目が正しかったということか。
しかし、ここで自分のことに思い至る。
30年て、ものすごく実は短いのだと。
30年前と、私はたいして変わっていないのだ。
いや30年前よりずっと子供っぽくなっているようにも思う。
そして、ずっと自由にも、楽にもなっている。でも、本質は全然変わっていない。
と、考えると30年冷凍睡眠ではなくて、50年とかの方がいいのかも……と思ったりもして。
30年後、宗一郎はたくさんの人の協力によって未来を作ったということを思い出す。
未来になると、より人の結びつきは強固になる、そう信じたい。いや、そうしていかなくちゃ、と思わせられた。

 

監督 三木孝浩
脚本 菅野友恵
原作 ロバート・A ・ハインライン
出演 山﨑賢人 清原果耶 夏菜 眞島秀和 浜野謙太 田口トモロヲ 藤木直人 原田泰造 高梨臨

※119分
©2021 映画「夏への扉」製作委員会
※2021年6月25日(金)より全国東宝系にて公開中

 

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