一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.225 「ヒトラーに盗られたうさぎ」

ヒトラー

美少女アンナから目が離せない!!
ユダヤ人家族の流浪に夢中になる

派手な展開があるわけでもないのだけど、細かな描写と役者のフォトジェニックな魅力で画面に釘づけになる作品がある。

本作はまさにそれ。主人公のアンナから目が離せなかった。
すごい美少女! 彼女が動いて喋って、悲しんで、とまどって、喜んで、怒って……とにかくずっと観ていたい気持ちがずっと続いた。
アンナと家族の流浪の旅は淡々と続くのだけど、その旅にずっとつきあった私は、ラストショットでぐっとこみ上げるものがあった。
やっと、アンナたちは落ち着ける場所を得たのだ。
これからはもうどこかへ行かなくてもいい……。
でも、アンナなら家族と一緒なら、彼女たちはどこへ行っても大丈夫なのだ。
そんな気持ちがないまぜになって、泣き出しそうになったのだろう。
アンナを観ている間中、私はとても幸せな時間を過ごすことが出来た。

ヒトラー

 

女性監督始め、女性スタッフによる
繊細なエピソードの描写が秀逸!!

舞台は1933年のベルリン。
裕福なユダヤ人家庭で育った9歳のアンナは兄のマックスとふたり兄妹。
お手伝いさんのハインピーとは大の仲良し。
劇作家の父と声楽家の母と幸せに暮らしていたが、ある朝、ヒトラーが選挙で勝利したことを懸念し、家族でスイスへ亡命することになる。
家財一式、大好きなぬいぐるみのピンクのうさぎも置いたまま、ハインピーに別れを告げ4人はスイスのチューリッヒへ向かう。
その山間の村では地元の子等と仲良くなり、楽しく暮らしていたのだが、そこでは仕事がない父親はフランスのパリへと引っ越すことを決める。
せっかく仲良くなった友だちや村の全てにさよならを言ってアンナたちはパリに。
そこはスイスとは違い狭く暗いアパルトマンで、アンナと兄は言葉も分からず、なかなか友だちも出来ない。
しかも、父親の当てにしていた仕事も少なく、一家は貧しい日々をつましく過ごすことに……。

スイスの田舎の村では女の子が男の子と一緒に側転をしたり遊んだりすることがなく、アンナが男の子にパンツ丸見えで側転を教えると周囲から浮いたりする。
アンナの行動に難色を示す女の子の態度や、それでも友だちを止めない女の子たちの描写が繊細で面白い。
監督(カロリーヌ・リンク)始め、原作者(絵本作家のジュディス・カー)も脚本も撮影も女性という本作、随所に繊細な描写が散りばめられている。

ヒトラー

 

アンナの家族のあり方、
ピュアでへこたれないアンナどちらも理想

本作はとにかくアンナが素晴らしい! どんな場所でも活き活きとしている。へこたれない。
また、アンナだけじゃなくて、音楽に触れられない母親のストレスや、父親のプライド、父親の息子への気遣い、アンナの好きな伯父さんとの交流、ハインピーとの絆、家族の絆など、繊細に網羅して描かれていて、いちいち心に刻み付けられる。
明日はどんなことが起こるのだろう、とアンナの日常がまさにサスペンス映画のように知りたい! と思うのだ。

こんな日々を幼年期に過ごした子供は何かクリエイティブな仕事をするんだろうな、と漠然と思っていると、ラストで本作の原作が著名な絵本作家のものだと知り納得。
原作者の「おちゃのじかんにおくれたとら」は読んだことがある。
監督が「ビヨンド・サイレンス」(96年)という聾者の話を撮った監督で、これも秀作で、私はすごく大好きな映画だったので「あの映画の監督だ!!」と知ってこれまた納得。
こんなふうに、かつて素晴らしい映画を撮った監督が久々で新作を撮って現れると、ことのほか嬉しい。

さて、アンナの家族のあり方自体とてもうらやましく理想だが、アンナのピュアでへこたれない魂のあり方も理想である。

 

監督・脚本 カロリーヌ・リンク
脚本 アナ・ブリュッゲマン
原作 ジュディス・カー
出演 リーヴァ・クリマロフスキ オリヴァー・マスッチ カーラ・ジュリ
ユストゥス・フォン・ドホナー マリヌス・ホーマン ウルスラ・ヴェルナー

※119分
© 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH
配給 彩プロ
※東京11月27日(金)から上映中
※大阪
12月4日(金)シネ・リーブル梅田
12月11日(金)より 京都シネマ、シネ・リーブル神戸上映中

 

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