関西が誇る田辺聖子の原作をアニメ化
足の悪いわがまま少女の世界が、開く!!
昨年、田辺聖子さんが亡くなられた時は「ああ、とうとう」ととても寂しい気持ちになった。
私が好きな作家の一人であるお聖さん。でも、まだ読んでいない著作はたくさんあるので寂しがることはない。田辺ワールドはいつでもそこにある。深い人間観察に満ちた名作ばかりだ。
私はいつも彼女の本で目を見開かされ、立ち止まらされ、前を進めと背中を押された。
本作はそんなお聖さんの原作で、2003年に実写映画化もされた作品だが、今回はアニメで、しかも話もかなり変えての登場だ。しかし、美しいラストの絵本の物語に、私は涙せずにはいられなかった。原作のラストは厳しい諦観に戸惑わされるのだが、本作のラストはとても優しくハッピーなものになっている。それは、この絵柄から言ってもぴったりで、アニメ映画という媒体的にも良い改変だと思う。
ふたりのドラマチックな出会いに胸が高鳴る
ジョゼの夢と恒夫の夢がリンクする
車椅子に乗ったわがままで口の悪い少女、ジョゼ。彼女は本と絵を描くことが大好き。祖母とふたりで暮らす日々はほとんど外出せず、想像の世界に引きこもる毎日だ。
ある日、夜の散歩中に車椅子が坂道で暴走。それを助けたのが大学生の恒夫だった。恒夫は海洋生物学を学び、卒業後はメキシコ留学を予定してバイトに精を出していた。ジョゼの祖母はそんな恒夫にジョゼの相手をするアルバイトをしないかと持ちかける。引き受けた恒夫にジョゼはさっそく文句を言うのだが……。
ジョゼというのはフランソワーズ・サガンの本の主人公の名前。
「うちのことはジョゼと呼べ」と言い放つ足の不自由な少女のプライドの高さ、ロマンチックさ、寂しさ……サガンと言っても今の若者は知らんわなあ~と思いつつ、原作の時代性にちと引っかかる。ジョゼの夢夢しい乙女チックな部屋に「うわあ~」とア然の驚きを示す恒夫に共感する。時代錯誤的な乙女な少女は大阪弁で舌鋒鋭い。
こんなギャップの女の子。恋せずにはいられないだろう。ジョゼはそのままお聖さんなのだ。お聖さんも小さい頃から足が悪かった。
人が人を導く時、互いの魂は光り輝く
導かれた先にあるものは……「善」なのだ
ジョゼと恒夫の世界はクロスしたかに見えて衝突してしまう。何かを失った時、人はいかにして立ち上がるのか、そして新しい道を探すのか?
人のために尽くすことは自分のために尽くすことと同義である。それは、そのまま自分の成長になる。ジョゼと恒夫の関係の反転に少女の魂の底力を見た。
その魂はキラキラと力強く光輝き、その美しさまばゆさに、私はポロポロ泣いた。心地良く。
声を担当した清原果耶、中川大志両者とも素晴らしい。また、ジョゼの想像の世界の描写など、絵も素晴らしい。文句なしの佳作。
こんなアニメ、日本人にしか作れないよ。ほんと。
監督 タムラコータロー
脚本 桑原さや香
原作 田辺聖子
声の出演 中川大志 清原果耶 宮本侑芽 興津和幸 Lynn 松寺千恵美
盛山晋太郎 リリー
※98分
Ⓒ2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
※12月25日(金)から全国ロードショー
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