一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.181 「バースデー・ワンダーランド」

バースデーワンダーランド

そこは「色」を失くしかけた不思議の国
少女と叔母の秀作冒険ファンタジー!

宮崎駿監督のアニメ作品は、宮崎さんの豊かで壮大な想像力が爆発していて、ただただ「おおーっ!」と感心して彼のめくるめく世界に浸る喜びがあった。

そこから、自分の新しい想像が喚起されることはほとんどなかった。
だから、優れた天才アニメ作家の作品を観て想像力を鍛えるということは期待しないほうがいい。
まあ、そんなこと期待してる人は多くはないだろうけど。

名作「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲」の原恵一監督の最新作の本作を観ながらそんなことを考えた。
原監督もいよいよ宮崎さんの域だなあ。

めくるめく想像力が爆発した作品となっていた。
老若男女楽しめる作品の仕上がりだ。
そして、原作があるからか、なかなかにシビアなセリフもあって、唸った。

私は「クレヨンしんちゃん」以後の原監督の作品が全て面白くなかった口なので、やっと、面白い映画を作ってくれた! とホッとしたのも正直なところ。

バースデーワンダーランド

 

それぞれの町の作りこみが詳しく楽しい
和製「ロード・オブ・ザ・リング」?

さて、お話は良く出来ている。
柏葉幸子さんの原作が優れているのだろう。
町や儀式の細部、キャラクターの作りこみが尋常ではない詳しさ。
そこへ原監督の想像力が加わって最強の物語になっている。

簡単に話を言うと、ちょっと自信のない内気な少女が、ひょんなことから「私たちの国を救ってくれる救世主」と言われ、叔母と一緒に不思議の国へ招かれ、そこで経験を重ね成長して戻ってくるというもの。
謎の男と小人に招かれた世界は極彩色に溢れた奇想天外の世界で、その世界で「色」が失われようとしている。
彼女たちが次々に訪れる町の造形に見とれる。

「ケイトウの村」や「巨大蓮が浮かぶ湖」や、途中であれ? これって今どこに向かってるんだっけ? となってしまったほど独立した世界が連なって現れる。
ちょっと和製「ロード・オブ・ザ・リング」?

バースデーワンダーランド

 

叔母のチィのキャラにぞっこん惚れた!
クライマックスのセリフも要チェック!

私が一番良かったのは、叔母のチィのキャラクターだ。
自信のない姪、アカネと正反対で、怖いもの知らずの自由奔放。
口が悪くて明るくて能天気で積極的でどんどん先に勝手に行っちゃうタイプ。

彼女の行動力にものすごく気分が明るくなったし、勇気づけられて観終わって清々しい気分になった。
主人公のアカネが霞んでみえたくらい。
声を担当した杏、好演!

そして、あるセリフ。
クライマックスでアカネが放った一言に国の大臣がぴしゃりと言った言葉。
それは、世界の、人間の本質を突いていて私は「ハッ」とさせられた。

児童文学である原作にきっとしっかり書かれたセリフなのだろう。
こういう箴言のようなセリフは児童文学にこそ、必要だ。
是非、そのセリフを劇場で確認して欲しい。

ギャグも私的にはすべってなかった。
また、キャラクターのデザインが今までの日本のアニメとはちょっと違っていてロシア人のイラストレーターによるものだそうで、そこも新鮮だった。
これまでのアニメは似たようなデザインばっかりなので新しい才能を起用するのも大切だなと感じた次第。

宮崎作品が観られない今、ファンタジーの世界をどっぷり堪能させてくれた秀作である。
日本のアニメはやはり、別格。素晴らしい!!

 

バースデーワンダーランド

 

監督 原恵一
原作 柏葉幸子
脚本 丸尾みほ
声の出演 松岡茉優 杏 麻生久美子 東山奈央 藤原啓治 矢島晶子 市村正親
※115分
Ⓒ柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
※4月26日㈮~全国ロードショー

バースデーワンダーランド

 

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