一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.169 「日日是好日」

お茶を通して大人になっていく
静かで劇的な人生開眼ストーリー

お茶を習いたくなった。

高校生の頃に部活動で茶道部に入っていたが、それはただ和菓子が食べられるから、という理由で入っただけで、お茶のことなんて
本作の主人公の典子同様、なんにも解っていなかった。
本作は、お茶を二十歳の頃から二十五年間習ってきた(現在も修行中)森下典子さんのエッセイの映画化である。

主人公の典子はひょんなことからお茶を習うことになるが、その教室に長い年月通うことによって、彼女の中で意識が変わりだし、お茶を通して成長し、自然や宇宙の真理まで理解していく。
お茶の作法やお茶会の様子。
美しい和菓子の数々。
季節を感じさせる掛け軸や庭の木々、雨、雪、風、光、闇、水。

それらを丁寧に映しながら、典子の内面を静かに、しかし激しく劇的に描いていく。
私は激しく共感しながら、静かに涙を流していた。

 

「すぐわからないもの」こそ人生の醍醐味
わかってしまうと人生の密度が加速する

典子は小学校五年生の時にフェリーニの「道」を観る。
話は暗くてさっぱり解らない。
しかし、大学生になって再び観ると映画館の暗闇でダラダラと涙を流し号泣する。
そして、彼女にとって「道」はその後も観る度に発見があり、感動は深くなるばかりだ。

世の中には「すぐわかるもの」と「すぐわからないもの」の二種類がある。
お茶は後者だ。
「すぐわからないもの」は長い時間をかけてじわじわ少しずつ気づいてわかりだし「別もの」に変わっていく。
そしてわかるたびに自分が見ていたものは全体の中のほんの断片にすぎなかったことに気づく。

映画はそうだ。
自身の成長の度合いによって、同じ作品が別物になる。
私も「道」は傑作と誉れ高かったので、映画の仕事を始めた二十一歳の頃に観た。
全然退屈で面白くなかったし、感動のラストも「ふーん」という感じだった。
その後観ていない(笑)が。
しかし、典子同様小学校五年生で観た「追憶」はよく解らずほとんど記憶がなかったが、三十代になって見直して大感動した。

こんな素晴らしい映画だったのか、と愕然とした。
映画は自身の成長が分かりやすい媒体だと思う。
私もいくつもそういう作品がある。
「道」観てみよう(笑)。

「すぐわからないもの」がわかるようになるのが、人生の醍醐味であり、「生きる」ということなのだろう。

 

なんでもまず、頭で考える私に反省
罪悪感は持ってはいけない

もう、前半で、「私も」「私も」という箇所が次々出てきて、「ああっこの映画むっちゃ私の映画だ!」となって焦った。
たとえば、お茶の稽古初日にお茶の作法の意味が解らず先生に質問すると

「意味なんてわからなくていいの。お茶はまず「形」から。その入れ物に後から「心」が入るものなのよ」
「それって形式主義じゃないんですか?」
「なんでも頭で考えるからダメなのよ」

うっ、私もなんでも頭で考える左脳人間だ。
頭で納得しないと前に進めないところがある。
お茶とはそういうものなのか。
と痛く感嘆した。

もうひとつ。
泣いてしまったシーンがある。
典子と父の別れの後の先生の言葉だ。
「典子ちゃん、罪悪感を持たないようにね」
人間が死と面したときにどうしても持ってしまう感情が罪悪感と後悔だと何かの本で最近読んだ。
典子もそうなのだが、先生も過去にその感情を持ったことがあるから、より、胸に響く言葉となっている。
ここは泣けた。
罪悪感は一番持つ必要のない感情だろうに、人間は持ってしまう。

 

日本古来の「道」は精神性を高める
自然と宇宙の真理を知ってきた日本人

典子はある日、教室にかかっていた「日日是好日」という掛け軸の意味が突然解る。
ずっと典子の目の前にあった言葉なのに、それは気づくまではただの記号に過ぎなかった。
でも、気づいたら……。

その意味が本作のテーマである。
是非劇場で、自分の目で心でその意味を確かめてほしい。

典子が「はっ!」と気づき目覚めていく描写がまるでミステリー小説のようで、人生の謎を解き明かしていく様子にワクワクドキドキした。
そして、お茶という日本古来の「道」によって人間の開眼があるということに、改めて日本人の精神性の深さを思い知った。
心に残る佳作。
原作も読んだが、映画の方が出色だ。

監督・脚本 大森立嗣
原作 森下典子
出演 黒木華 樹木希林 多部未華子 原田麻由 川村紗也 滝沢恵 山下美月
鶴田真由 鶴見辰吾

※100分

※10月13日(土)テアトル梅田他全国ロードショー
※2018「日日是好日」製作委員会
配給:東京テアトル ヨアケ

 

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