こころとからだと魂を統合させて 「自分らしさ」を全うする 産婦人科医 対馬ルリ子さんインタビュー

対馬ルリ子

【「知識と実践」で「信頼できる自分」を内側につくる】

「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」(※)の第一人者で、産婦人科医、医学博士の対馬ルリ子先生。

先生はこれまでに、低用量ピル認可の推進役を担ったほか、女性外来の先駆者のひとりとして、女性のための総合医療の実現にも大きく貢献。女性が生涯において、心と体の健康を維持しながら、家庭でも社会でも自分らしく輝き、活躍できるようサポートをし続けています。

では、女性が「生涯にわたって自分らしく輝きウェルビーイングとして生きる」ためには、どんなことが大切なのか。

対馬先生にお話を伺いました。

 

*  *  *

 

—— 今、対馬先生はどのよう想いを強くお持ちなのですか?
対馬ルリ子さん:
多くの女性が「自信」や「自分らしさ」を取り戻す、そのためのお手伝いができたらと思っています。
これまで数多くの女性と接してきましたが、やはり日本人女性は、自分に自信がなかったり、自己肯定感が低かったり、「女性だから」とやりたいことや自分らしさを発揮することをあきらめてしまっている方が多いように思えます。
人の顔色ばかりうかがってしまったり、他者の意見に左右されたり、他者の評価を気にして一喜一憂してしまう女性も多いですよね。これはすごく疲れる生き方です。
なぜそうなってしまうかと言えば、自分の内側に「信頼できる自分」という軸、もしくは土台ができていないからです。

—— どうすれば「信頼できる自分」が内側にできますか?
対馬さん:
まず、「知識と実践」ですね。わかりやすい例で、勉強して知識を身につけ模試で実践していい点が取れたら自信につながりますよね。
勉強に限らず、興味を持ったこと、やってみたいことがあったら、どんどんチャレンジして知識と実践によって、自分の中に自信として積み重ねていくわけです。
いろんなことに対する自信がどんどん集まって、その人の内側で「信頼できる自分」の土台になっていくわけです。
この土台がないと、周囲ばかりキョロキョロして疲れてしまい、自分の内側はどんどん空疎になって、心身のバランスも悪くなり、生きるためのエネルギーが枯渇するという悪循環になってしまいます。

—— 生きるためのエネルギーとは?
対馬さん:
からだの「体力」、こころの「気力」、そしてもっと私たちの深い奥底の部分の「胆力」とでもいうべき力、この三つが統合されて「生きるためのエネルギー」になっていると私は考えています。
この胆力というのは、「信頼できる自分」を信頼してあげればあげるほど強くなって、「自分らしく生きる」ための原動力になるわけです。
おなかの底に核があれば、周囲と自分の生き方が違っていても「人のことなんか気にしなくていいじゃない」と言えます。
自己肯定感が低いとそれができなくなるので、自信を持つことは大事ですね。

—— そこに医療はどうかかわってくるのですか?
対馬さん:
からだとこころの健康、つまり、体力と気力を常に最適な状態にキープするのが医療の役目です。そのための知識を身につけ、健康維持を実践することで、心身の健康に自信が持てます。
これは人生でウェルビーイング(より良く生きる)を実現させるうえで、とても重要なことなのですが、日本、特に日本人女性は、ヘルスリテラシーが先進国の中でも低く、女性のからだのことについて、知らないことが多いのです。
ヘルスリテラシーが低いことの原因は、個人だけでなく、国にも責任があります。多くの先進国では、10代の頃から女性も「かかりつけ医」がいて当たり前です。国がそういう政策を進めているからです。しかし日本では、病気がちな人しか、かかりつけ医という意識がありません。
かかりつけ医のメリットは、どんな小さな異変でも相談できることです。
例えば女性というのは、50代まではホルモンの影響を強く受けます。年齢とともにホルモンにもステージがあり、それによってできることとできないことなど、人生の選択肢にかかわっています。
かかりつけ医がいれば、そうした知識が身に付き、どう生きるかの実践方法も変わります。つまり、人生をもっと戦略的に生きられますが、日本ではそれができません。
これは多くの女性が「自分らしく生きる」うえで大きなデメリットです。
医師は困ったときだけの相談相手ではなく、生涯のアドバイザーというのが正しい在り方だと思っています。

対馬ルリ子

 

【バランスの取れた健康が実現すれば、どんな人生も実現できる

—— 対馬さんの人生も「自分らしさ」を貫いてこられたようですね。
対馬さん:
私が育った昭和の時代は、今以上に「女性だから~しなさい」という制約が多く、そのセリフを聞くたびに大反発していましたね(笑)。
医師になっても、「産婦人科は激務だし女性はムリ。育児しながらなんてなおさらムリ」などと周囲からは言われました。
でもとにかく私には、多くの女性をサポートしたいという想いがありましたので、家族の協力をあれこれと仰ぎながら、やり続けたわけです。
やはり何ごとも「あきらめないこと」が大事ですね。特に女性は「女性だから」とあきらめずに、自分らしさを貫いてチャレンジしてほしいですね。
勝ち組、負け組なんて言葉がありましたけど、真の勝利というのは「自分らしさ」を全うすること、だと私は思っています。
そのためには、こころとからだ、そして奥底の自分を統合させていくことでしょうね。

—— その意味では、医師になられた二人の娘さんたちも、お母さんの影響を受けた?
対馬さん:
次女は自由奔放な高校時代を過ごし、偏差値29のまさにビリギャルでしたからね(笑)。でも一念発起するや2浪で医学部に入り、今は産婦人科医になって5年目です。
この前話を聞いたら、産婦人科以外の他科のことも全部勉強しているという、私を含めて他の医師がまずやらない努力をしていたので、「珍しい人だな」と思いましたね(笑)。
妹が医学部に受かったのを見て、すでに大卒だった長女も25歳で医学部に入り直し、現在駆け出しの医師になっていますね。
「自分がこうする」と決めたことを貫く意志の力は、たしかに娘たちと共通していますけど、私には彼女たちのような根性はありません(笑)。

—— 「なりたい自分になれる」というお手本ですね
対馬さん:
そうですね、こころとからだと奥底の自分が統合され、バランスの取れた健康が実現すれば、どんな人生も実現できますよね。
そのためにもぜひ、「かかりつけ医」を見つけてほしいですね。
病気の発見が遅くなり、軽くて済むはずだった病気が重症化してしまい、本来果たすべき使命や役割をあきらめざるを得なかった人たちがたくさんいます。
そして、世に自信に満ち、自分らしさで輝く女性が増えてくれることが私の願いです。
そんな女性が増えればきっと、日本は縄文のように、男女が対等に役割分担をしながら、調和の中で自分らしさを全うしながら、永らく暮らせる時代が戻ってくるのではないでしょうか。

 

対馬ルリ子さんの講演会が開催されます
https://www.trinitynavi.com/products/detail.php?product_id=3372

 

対馬ルリ子

〈対馬ルリ子さんプロフィール〉
医療法人社団 ウィミンズ・ウェルネス
女性ライフクリニック銀座・新宿 理事長
産婦人科医師、医学博士
家族は夫と娘二人。

1958年青森県生まれ。1984年弘前大学医学部卒業、東京大学医学部産科婦人科教室入局。
東京大学産婦人科教室助手、都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長を経て、2001年女性のための生涯医療センターViVi設立、初代所長。2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現 対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座)開院。産婦人科、内科、乳腺外科、心療内科、泌尿器科等で協力して全人的女性医療に取り組む。女性の生涯のかかりつけ医としてトータルな健康支援に取り組んでいる。2003年女性の心と体、社会との関わりを総合的にとらえるNPO法人「女性医療ネットワーク」設立。全国約600名の女性医師・女性医療者と連携して活動し、さまざまな情報提供、啓発活動や政策提言を行っている。

2012年新宿伊勢丹内に女性ライフクリニック新宿開院。
2017年日本家族計画協会「第21回松本賞」受賞。
2017年デーリー東北賞受賞。2018年東京都医師会・グループ研究賞受賞。
日本産科婦人科学会 専門医
母体保護法 指定医
東京産婦人科医会 理事
NPO法人女性医療ネットワーク 理事長
日本思春期学会 理事
日本性感染症学会 代議員
東京大学医学部大学院 非常勤講師
日本産科婦人科学会リプロダクティブヘルス推進委員会 委員
厚生労働省 女性の健康の包括的支援総合研究事業 研究班
ウィミンズ・ヘルス・アクション実行委員会 副代表
一般法人社団日本女性医療者連合(JAMP) 副代表
東京思春期保健研究会 副会長
日本女性ウェルビーイング学会 アドバイザー
公益社団法人日本アロマ環境協会 顧問
一般財団法人日本女性財団 代表理事

【著書】
●「閉経」のホントがわかる本/集英社