私が霊能力を信じないのは、今までに「これは本物だ!」と思える霊能力者に会ったことがないからだ。
女性誌の占い特集などの企画で霊視者や霊感占い師に会ったことも何度かあるが、「おお!」と思ったことは一度もない。
15年ほど前、雑誌ananの占い企画で、前世を視てくれるという外国人(おそらくアメリカ人)女性に会った。
彼女は椅子に座った私をじっと見つめた後、静かに口を開いた。
「あなたの前世は、中世のイタリアのオペラ歌手でした」
「ほう」
自分の前世なんか憶えてないし(そもそも前世というものを信じてないし)、そんなこと言われても証明のしようもないわけで、リアクションに困った。
私が何も言わないので、彼女は促すようにこう続けた。
「ずいぶん人気のあるスターだったようですよ」
「そうですか」
「こう言われて何か心当たりはありませんか?」
「うーん……べつに」
「前世は、今のあなたにも影響しています。たとえばあなたは、歌が好きでしょう?」
「とんでもない。大嫌いです」
これは彼女を困らせようと思ってわざと否定したわけではない。
私は母親譲りの音痴で、人前でも滅多に歌わないし、ひとりで家にいても歌を口ずさむことはほとんどない。
友人たちはみんなそれを知ってるので、カラオケにも誘われない。
家で仕事をしている時も、BGMは一切流さない。
気が散るから嫌いなのだ。
正直に答えただけなのだが、彼女は困惑したようだった。
「そうですか? 本当は歌の才能があるはずですよ」
「いや、本当に音痴なんです」
「自分の中にある歌の才能に気づいてないだけでは?」
「いやいや。私はもう40歳超えてるんですよ? 歌の才能があれば、この年までずっと音痴でいられるはずがないです」
「そうですか」
彼女は「歌」については諦めた様子で、話題を変えた。
「そういえば、オペラ歌手だったあなたは、衣装にも大変凝る人だったようです。いつも素晴らしい衣装を身につけていました。だから、あなたは今でもお洋服が大好きでしょう?」
確かに、そのとおりである。
私は服を買うのがやめられなくなって買い物依存症にまでなった女だ。
が、彼女がそのことを霊視によって看破したとは思えない。
何故なら、その時、私は胸にでっかく「Dior」と書かれたTシャツを着てたのだ。
服に関心がなければ、何万円もするディオールのTシャツなんか買うわけがない。
そこで私は答えた。
「そりゃそうですよ。そんなの霊能者でなくたって、誰でも見りゃわかるでしょ。こんなDiorって書いたシャツ着てるんだから」
すると彼女はさらに話題を変え、
「オペラ歌手だったあなたは大恋愛をしましたが、その人とは結ばれませんでした。だからあなたは今までに壊れてしまった恋愛の経験があるでしょう?」
「当たり前じゃないですか! 40年以上生きてくれば、恋愛も何度かしてるし、恋愛すればいつかは終わる。恋愛も失恋もしないで40歳を超える人のほうが珍しいでしょ」
この時、私は心の底から確信した。
彼女は私の中に何も視ていない。
表面的なことや当たり前のことしか読み取れないのなら、それは霊能力なんかじゃない。
私の前世がオペラ歌手だったかどうかではなく、現在の私の奥深くにある人間性の核を取り出してみせてこそ、超能力と言えるはずではないか!
そんなわけで私の前世は、ついに解明されなかった。
そこで、この数年後、私は独自の方法で自分自身から前世を聴取しようとするのであるが、その話は次回に続く。
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