中村うさぎさんコラム「どうせ一度の人生・・・なのか?」 part.18 霊が伝えることとは……HONKOWA作家、伊藤三巳華さんの幽霊談③

スピ散歩でお馴染みの漫画家、伊藤三巳華さんによる親族の霊の話から、中村うさぎさんは自身ととの間であった過去を思い出すことに……そこで改めて感じたこととは?

三巳華さんは、亡くなった親族の霊がしばらく家に留まっていた話もしてくれた。

「たぶん亡くなってから、他に行くところがなかったというか、私の家しか知らなかったのかもしれないんですけど、ずっとうちにいたんですよ」
「どういう感じでいるんですか?」
「うーん……私、思ったんですけど、生きてる人間って肉体を持ってて、それぞれの想いはその肉体の器の中に入ってるじゃないですか。でも霊になったら肉体がなくなるので、想いが流れ出てくるというか、もうダァーッと漏れて来ちゃう感じなんですよ。その感情が私の身体の中に入ってくるのがわかるんですね」

なるほど、これは面白い説だ。
肉体を持つということは、想いをその中に閉じ込めて秘めておくことができる、と。
だが肉体を失うと、秘めた想いも押し殺してきた感情も何もかも、割れた器の中の水のように流れ出てしまうと言うのだ。

霊感のない人間でも、目では視えなくても何となく嫌な感じがするとか邪悪なものを感じる時があるけど、それはそこにいる霊の溢れる憎悪や恨みの念が身体の中に浸み込んでくるからかもしれない。
背筋がゾクッとする感じは、そういうことなのかもしれないのだ。
うーむ、怖い……!

中村うさぎさん伊藤三巳華さん対談1回目

「その人は私のことをすごく恨んでたんだと思うんです。生きてる間は我慢してたけど、肉体を失ってその気持ちが一気に溢れ出てしまったんですね。本人もそんな気はないのに『ああ、出ちゃった』って感じだったんじゃないでしょうか。それで、私は7日間、ものすごく怖い思いをしてたんですけど、本人がいるので怖がってる素振りは見せず……そうやって7日間、その人の霊はいたんです」
「7日間ですか」
「はい」
「それってやっぱりアレですかね? ほら、『初七日』っていう……」
「ああ、そうですね。そういうのもあったかもしれない」

「初七日」というのは、ご存知のとおり、死者の霊が三途の川に着くまでの日数である。
三巳華さんのご親族の霊は、三途の川に到着するまでの間、生前にもっとも執着していた彼女の家にやってきた、という解釈もできる。

三巳華さんにとっては迷惑な話だが、その人にしてみれば三途の川を渡るまでに今まで閉じ込めていた恨みや憎しみを吐き出さずにはいられなかったのかもしれない。

それを吐き出してしまわないと、三途の川が渡れない、とかね。

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その話を聞きながら、私は数年前に亡くなった従妹のことを思い出していた。

兄弟姉妹のいない私にとって、ひとつ年下のその従妹は、妹とまでは言えないがそれに近い存在だったのだ。
美人でスタイルが良くて頭もよくて、私にとっては劣等感を掻き立てられる存在だった。
おそらく彼女もまた私に対してライバル意識のようなものを持っていたと思う。
40代半ばくらいまでは彼女も女社長として成功し、華やかな生活を送っていた。
私とよく似ていてブランド物が大好きで、服にお金を注ぎ込んだり、私がホストにハマった後にはやはり若い男に貢いだりしていて、「なんか同じような道を歩んでるなぁ。やっぱり血筋かねぇ」などと話したこともあった。

 

だが40代半ばあたりから、彼女の人生は急転落した。

子宮筋腫(私も同じ病を患っていたが治療はしなかった)の治療薬の副作用で急激に肥り、人前に出るのが嫌になって引きこもった挙句、会社が倒産してしまったのだ。
彼女はますます鬱になり、私に何度か「助けて」というメールを寄越すようになった。
最初は励ましたりしていたのだが、昼夜を問わず長文のメールが来るようになって面倒くさくなり、あまり返事をしなくなった。

そうして彼女はある日、部屋のドアノブで首を吊って自殺してしまった。

あの時もっと彼女の悩みに真摯に応えてあげればよかった、と後悔したが後の祭りだった。
そして彼女の死から2年くらい経って、今度は私が原因不明の神経の病気に罹って死にかけたり、仕事を次々に失って経済的な危機に陥ったり、薬の副作用で急激に肥満して鬱になったりした挙句、彼女と同じようにドアノブで首を吊って死のうとした。
私が助けてあげられなかった彼女の苦悩を、ひととおり味わう羽目になったのだ。
以前は私の人生を年下の彼女がなぞるような感じだったけど、彼女の死後は私が彼女の晩年をなぞったような気がする。

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彼女が私を恨んでいたのかどうか、私にはわからない。

メールに返事もろくろくくれなくなり、経済的に困窮していたのに手も差し伸べなかった私を、彼女が恨んでいたとしても仕方ない。
私には霊感がないからわからないけど、もしかして彼女の霊は私の家に来ていたのだろうか?
私に想いを伝えたくて、だけど私はこのとおり鈍感だからまったく気づかず、またしても彼女を無視してしまったのだろうか?

三巳華さんに「私の後ろに従妹の霊が視えますか?」と訊いてみたかったけど、「いますよ。すごく怖い顔してます」とか言われたら怖くて眠れなくなるので訊けなかった(笑)。
だが、私には、自分が従妹の人生を引きずって生きている、という感覚がある。
それが「霊が憑いてる」ということと同義なのかはわからないが、彼女の無念を背負う責任が自分にはあるような気がするのだ。

もし霊能者の人に「従妹の怨霊が憑いてる。祓った方がいい」と言われたら、私はお祓いをするだろうか?
なんとなく「従妹が私に憑いていたいんなら、気がすむまでいていいよ」とか言いそうな気がする。

それしか私には罪滅ぼしの方策がないのだから。

 

伊藤三巳華さん 情報
『スピ☆散歩 ぶらりパワスポ霊感旅』①~④
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14083

 

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