新・神々の履歴書13回  「どろろ — 醍醐景光が契約した鬼神は誰か?」 — 赤き竜・カバラの大天使サムエル — 上

どろろ

復活を止める儀式 — 心臓を杭で打つ

このビジョンで特徴的なのは「心臓を杭でうつ」ことです。
何のためにそんなことをするのでしょうか。

古代エジプトでミイラを作る際、他の内臓はすべてとりだしても、心臓は残します。
当時の人々とっては、心臓は魂の宿るところなので、これがないと、せっかくミイラを作っても、魂がそこにもどってこれず、復活ができないのです。

心臓を杭で打つということは=復活させないことを意味します。
生贄とは、肉体を捧げることではなく、神様に、魂をささげることです。
ですから、神様に捧げられた魂が、二度とこの世に戻ってこないように、心臓を杭で刺すのです。

では、その魂はどうなるのかというと、船で沈めるという事は、湖の底の神の国(冥界)に送るのです。

余談ですが、ツタンカーメンのミイラは心臓がありません。
彼は、当時のエジプト人からすると異端のアテン神を信望した王です。
1つの可能性として、従来の復活を期待するアメン信仰とちがって、彼の信じるアテン信仰自体が、死後復活しないこと=永遠に魂のままで存在することを、目指した宗教だったかもしれません。

ユダヤ教(特にカバラ)は、モーゼを介して古代エジプトの秘儀が色濃く入っているので、心臓に杭を打つ風習も伝わったのかもしれません。

 

百鬼丸は、冥界にいかずに戻ってきた怨霊?

百鬼丸も、体のすべてのパーツは奪われながら、観音菩薩のご加護で、命だけは奪われません。
それは、魂は奪われていないことを意味します。

瀕死の百鬼丸は、川に流されます。川は、古来より洋の東西を問わず、冥界への道を表します。ところが、魂を奪われていない百鬼丸は、冥界に行きつかず養父たる樹海に拾われます。

つまり、この世にかえってきたのです。

現実的には、48の体のパーツを奪われては、いくら心臓が残っていても生きてはいられませんから、正確には、「肉体は死んでしまったが、魂はあの世に行かず、怨霊としてこの世にとどまった」というべきなのです。

そう考えると百鬼丸の神がかり的な能力や、醍醐の人々の恐れおののきようも、わかります。16年前自分たちが生贄にした子供が怨霊となってもどってきたのですから……もはや、菅原道真当時の藤原氏の心境でしょう。

もちろんそれでは、漫画として(すくなくとも手塚ワールドとして)成立しませんから、アニメでは、百鬼丸は、生身の美少年として描かれています。

 

日本に伝わったユダヤの伝統 — 「嫡男を生贄に捧げる」

「どろろ」には、日ユ同祖論的な要素がふんだんにみられます。その極めつけが、百鬼丸が、「領主の嫡男」であることです。

「王たるものが国のために長子を神に捧げる」モチーフは、旧約聖書にも登場します。
「列王記」に、古代ユダ王国のアハズ王が、自分の息子を火に焼いて生贄に捧げたことが記されています。

ギリシア神話でも、トロイ戦勝の折、ギリシア軍総大将アガメムノンは、実の娘を月の女神アルテミスの生贄に捧げたことが記されています。

要するに、「王たるものが、国家の安寧のために我が子を生贄に捧げる」ことは、古代の東地中海地域で、当時としては普通に行われており、一種のノーブルオブリージュ(王たるものの義務)ですらあったのです。

アガメムノンの生贄は娘ですが、父系性の強固な地域では、娘より息子、そして後継ぎたる長男が、最とも価値の高い人身御供なのは言うまでもありません。

日本にユダヤ人が渡来したのは、バビロン捕囚(BC597年)の際といわれていますから、旧約聖書の成立以前、つまり人間の生贄の禁止が成文化される以前の話です。
古代オリエントの「国の繁栄のみかえりとして、嫡男を捧げる」風習は、渡来ユダヤ人によって日本にも伝わったのではないでしょうか。

それがいつの時代まで実行されていたかはわかりません……ひょっとしたら、戦国時代くらいまでは、一種の秘儀として、密かに伝わっていたのかもしれません。

人が殺し合うことが日常茶飯事の狂った時代ですから、天下布武を願う戦国大名が、自らの大願成就のために、我が子を生贄に捧げるくらいのことは、しかねない時代の空気があったのではないでしょうか…

さあ、下は、いよいよ、醍醐景光が契約した鬼神のプロファイルです。
お楽しみに!

 

どろろ―醍醐景光が契約した鬼神は誰?
— 赤き竜カバラの大天使サムエル — 下に続く

 

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