『カオスからコスモスを引き出す実践的養生法論~其の弐・いま話題のオートファジーについて』

もしもオートファジーという機能がなければ、真核生物は飢餓時にはすぐに死んでしまい、子孫を生むこともできずに、サナギが成虫になることもできずに、病気を予防できずに、免疫を維持することもできません。

「オートファジーを知っていましたか?」

みなさま、いつも私の記事をお読み頂きましてありがとうございます。

ハリィーこと、アヴァンギャルド鍼灸指圧師&養生クリエイターの今村光臣です。

さて、皆さんもすでにご存知のように、本年度2016年のノーベル医学・生理学賞が東京工業大学・栄誉教授の大隅良典氏に授与されることが決定いたしました。

この大隅教授のノーベル賞の受賞理由が、細胞内の生理機構であるオートファジーの発見に対して、です。
オートファジーと聞いて、皆さんはすぐにそれが何のことか連想できましたか?

実はこのオートファジーという耳慣れない生理学用語を、今回の大隅教授のノーベル賞受賞を機に初めて知ったという方も多かったようです。

そこで、今回はートファジーとは何なのか? にフォーカスして話を進めてまいります。

 

「オートファジーとは自分を食べること?」

では、まずオートファジーという言葉の由来を説明します。

ートとはギリシャ語で「自分」を、ファジーとはギリシャ語で「食べる」を意味することから、
オートファジーは自食作用(じしょくさよう)などと直訳で呼ばれる生理現象です。
オートファジーとは自分を食べること? 細胞のなかで自分が自分を食べる?

なんのことか意味がわかりませんよね。

大隅教授がオートファジーを発見したのは酵母という原始的な真核生物の体内においてです。
酵母のような微生物の真核生物から植物、昆虫、動物のすべての真核生物の細胞内でオートファジーは行われています。

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オートファジーとひとことで言っても、実はオートファジーには数種類のタイプがございます。
そのなかで最もよく研究されているのが飢餓応答型マクロオートファジーと呼ばれるタイプです。
このタイプはその名の通り、空腹時、絶食時、飢餓時において活性化するオートファジーです。

口から新たな栄養素が入ってこない飢餓状態において、細胞は自分のなかにある使えるモノを分解して、
この分解産物を原料に細胞生理を維持します。

細胞が飢餓状態に置かれると、オートファゴソームという膜の袋が忽然と細胞質内に現れて、
細胞質内の分子をあらかたゴッソリとその袋に取りこんで、最終的にリソソームという袋と融合し、
リソソーム内の70種類もの分解酵素で分解された分子は、また細胞内にリサイクル資源として吐き出されます。

まさにタコが自分の足を食べるように、細胞が自分自身の足ならぬ余剰産物を食べるのです。

 

「オートファジーとは細胞のクリーニングシステム?」

この細胞内の余剰産物の代表が変性タンパク質と呼ばれるタンパク質のゴミです。
ご存知のように細胞核DNAの遺伝子はタンパク質を生み出す設計図です。

ヒトの細胞では毎秒数万個ものタンパク分子が生まれています。

しかし、そうして生まれたタンパク分子のうちの約30%はフォールディング(折りたたみ)に失敗して、一度も使われることなく、分解されていきます。
それだけでなく細胞内には80億個のタンパク分子がひしめいているのですが、これらのタンパク分子のなかにも、様々な環境ストレスによってカタチがイビツになったり、カタチがひしゃげたりして機能が麻痺してしまいゴミと化すタンパク分子が常時、発生しています。
このようなゴミと化した変性タンパク質が細胞質内に溜まると、細胞内がまるでゴミ屋敷のような状態になり、通常生理に支障が出ます。

もしも細胞内が変性タンパク質が溜まったゴミ屋敷状態のままだと、これが原因となってアルツハイマーやパーキンソン病、癌などの変性疾患を引き起こすとされます。

ですから、変性タンパク質は見つけしだい速やかに分解して常に細胞質のなかは綺麗に、クリーンにしておかねばなりません。
変性タンパク質はアミノ酸に分解されると、新たなリサイクル資源として、またタンパク質合成に活用されます。
このタンパク質の合成と分解の繰り返し、タンパク質の妙なる流れを支え、そして細胞内を常にクリーンにする仕組みが、オートファジーなのです。