しかし! 事態はこれで終わったわけではありませんでした。
私は先ほどの数倍具合が悪くなりました。
背筋がゾクッと凍りました。
なんと! 私の後ろに匂いの君が姿を現したのです。
匂いの君は、中肉中背で短髪の営業マン風の中年男性でした。
遠目で見る分には、まさかこの人が異臭の源だとは思えません。
どちらかと言えば爽やか系でした。
匂いの君に捕獲されたわけでも何でもないのですが、逃げる事はできません。
私の前にも数人のお客さんがいます。
他のレジも決して空いているわけではありません。
しかも自分の真後ろに人がいるのに、堂々とレジを移動するなんてできません。
まさに絶体絶命の大ピンチです。
彼はきっと悪人では無く真面目な人なのでしょう。
ワイシャツもシワシワではなく、黄ばんでもいません。
ズボンもしっかりとアイロンがけされている感じでした。
皮靴も清潔そうでした。
そうです。
彼は悪人ではないのです。
でも、でも、でも……耐えられないニオイ……。
私が諦めかけたその時、不思議なことが起きました。
なんと、異臭の君が隣のレジに移動したのです。
おそらく少しだけ隣のレジの方が空いていると感じたのでしょう。
ただ、異臭の君は強烈な残り香を残す方ですので、私の後ろには強烈な匂いだけは消えずに残っていました。
でも、ほんの僅かでも異臭の源が移動してくれただけでも私にとっては救いでした。
スメハラとジレンマ
この件で私は考えさせられました。
私にとっては『スメハラ』以外の何物でもなかったのですが、「だからどうだと言うの?」と問われると困ってしまうのです。
たとえば他のお客さんも異臭の君の出現であからさまに顔をしかめたのが確認できたのであれば「不快に思ったのは私だけじゃなかったんだ……」と言えますが、周囲を見渡すとみなさん無表情な感じでした。
もしかしたら何事もなかったかのように大人の対応をしていたのかもしれません。
もしくは鼻が悪いのかもしれません。
強烈な臭いは認識できるけれど心身に不具合が生じるほどではなかったのかもしれません。
もしかしたら私が敏感過ぎるだけなのかもしれません。
百歩譲って、本当に臭かったとします。
でも、異臭の君の嗅覚が障害か何かで麻痺しているとしたらどうでしょう。
指摘したら少々可哀想な気もします。
小学生のイジメのように変な言い掛かりをつけられたと思われてしまうかもしれません。
次に、彼が単なるヘビースモーカーだったとします。
そして彼は店内で迷惑な喫煙をしていたわけではありません。
少なくとも最低限のマナーは守っているのです。
やはり指摘したら「私は、マナーはしっかり守ってますよ! それでもタバコを吸ってはいけないんですか!」と怒られてしまうかもしれません。
香水が好きな人は自分の香水が強烈でも気付きません。
ニンニクが好きな人は自分がニンニク臭くても気付きません。
それと同じでスモーカーは、そもそもタバコを臭いと思っていません。
さすがにお店側に「臭いお客さんが店に悪臭を残しているので何とかして下さい!」とも言いづらいです。
当たり前は当たり前じゃない!
私は当たり前のように、このスーパーを利用していました。
安全で、安心だと思っていたからです。
当たり前のように買い物をして、当たり前のように喜んで、楽しんで、そして帰る。
しかし、考えてみれば、当たり前って実は当たり前ではないのです。
平和で、安全で、安心であることは幸運なことなのです。
そしてこのスーパーに罪はありません。
今後も異臭の君が常連である事がわかったら、私もホームを変えざるを得ませんが、それは異臭の君のせいとも言い切れません。
私が、今回、なぜこのような話をしたかと言うと、「当たり前の平和に感謝しよう』とかそういうことだけではなく『スメハラ』について、もっと多くの人に知って貰いたかったからです。
スメハラはとてもデリケートな問題です。
正解は無いのかもしれませんが、この記事を読んで「そっか。そういうこともあるんだな……」と思ってくれる人が一人でも増えてくれれば、自分自身がスメハラする側にならなくて済むと思うのです。
だってイヤじゃないですか。知らないところで「あの人、臭くて迷惑だよね……」と言われたら。
そんなに神経質にならなくても良いですし、気にし過ぎは気にし過ぎで問題ですが、少しだけでも気にとめてくれたら、ニオイで悩む人も減るのかなと思います。
私も改めて匂いの影響力の強さを再認識しました。
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