脳の老化予防は、目と脳を同時に使うこと! 眼科の権威がアドバイス

「脳トレ」が流行って久しいですが、日常生活にちょっとした意識をプラスすることで、脳の老化予防ができます。それは、目を意識して使うこと。井上眼科病院の名誉院長で、神経眼科、心療眼科を専門とする若倉雅登先生に、目と脳の関係をお伺いしました。

『目はとても敏感な器官。脳と連動して働いている』

― 目はどのような器官なのでしょうか。

目というのは、非常にいろいろな機能を持っているのです。遠くも近くも、上下左右を見るし、何か飛んでくればそれを追うとかね。自分も動けば相手も動いて、景色も動くという、そういう非常に複雑な視覚環境のなかで、私たちはものを見ているわけです。

けれども多くの眼科検診では、止まっているものを見たり、「C」の方向を測るだけだから、日常の視力や視野をそのまま反映した計測はしていないわけですよ。だから検査結果が良いといっても、日常の視力をそのまま表しているわけではないと思うのです。
患者さんが「見にくい」と訴えても、検査結果は異常なしというのはよくあります。ですが、ご本人は不都合なんですね。

快適な目の状態というのは、目に何も感じない状態です。目に少しでもゴミが入ったり、傷があったら、ショボショボして何もする気がなくなりますよね。非常に敏感な器官なのです。

だからこそ、いろんなものが表現されると思います。疲れや辛さ、痛み。その人が幸か不幸かまで表情を見れば分かるし、人の話を聞いているかということも分かりますよね。そういう豊かな機能を持っているのに、現代人は携帯やパソコンを見るだけなど、「近くを見る」という非常に限定された神経回路だけを使っているわけですから、損をしていると思うのです。目と脳は共同作業をしているので、こうなると脳の使い方も単一化してしまいます。意識していろんな使い方をしたほうが良いわけですね。

『考えながら“見る”。脳と連動した目の使い方でボケ防止』

― どのような目の使い方をすると良いでしょうか。

やはり精神活動ですよね。精神活動を活性化させると、物事に対する関心も深まるし広がる。「見る」という行為自体、目が見ているのではありません。脳で見ているのです。目から入った情報は、脳の後頭葉へ行き、そこから脳の各地に信号が分散する。脳の90%は視覚と関連する仕事をするといわれるほど、人間の脳への入力は、視覚からのものが多いのですね。

たとえば、何かを見たことをきっかけに考えたり、記憶と照合したり、“この人は嫌だ”と感じたりしますよね。見た後の次の仕事も全部脳の仕事なんですね。そういう、目の奥のもっと豊かな領野が「神経眼科」「心療眼科」の専門です。豊かで深い脳の機能を、目と一緒に使うのは、とても大事な人間らしい仕事だと思います。

― 目と脳を意識した使い方と効果についてお伺いできますか。

たとえば、テレビドラマを観る時も、ボーッと観ていたら精神的な活動はあまりしていないし、ストーリーも分からなくなってしまいます。人の話を聞くときもそうですが、もう一度反芻するのが良いですね。ドラマを観たら、どんなストーリーで、どこが面白かったのか、そこに感想もつけて考えたり話すことがとても大事な精神活動になります。脳の前頭野を使うので、ボケ防止になるでしょう。

脳を使う癖は30代、40代からつけておかないといけない。50、60代になってから急に心がけても上手くいかないと思うのです。

老化がずっと先のことと思わないで、老いの一歩手前である、40代、50代にいろんな精神活動を行い、どういう姿勢でいると良いのかを考えておきます。頭がしっかりしている時に準備しないと、老化してからでは遅いでしょう。30代、40代の若いうちに始めれば、豊かな人生が待っていると思うし、老いていく親の気持ちや辛さの理解も深まると思うのです。

若倉雅登
医学博士。北里大学大学院医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学医学部助教授を経て、現在は、医療法人社団済安堂井上眼科病院名誉院長。北里大学客員教授、東京大学非常勤講師。専門は主として神経眼科、心療眼科。近著に、小説『高津川、日本初の眼科女医 右田アサ』(青志者)、『一歩手前の<老い入門>』(春秋社)
井上眼科病院 http://www.inouye-eye.or.jp/

 

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