山本記念病院理事長・山本百合子さんインタビュー「病気は悪ではなく、人生に意味をもたらしてくれるもの。その意味を一緒に解きほぐしていくのが、私たちの診療です」

神奈川県横浜市にある山本記念病院にある自由診療部。理事長である山本百合子先生自ら指揮をとり、日々ホリスティックなケアにあたっている。西洋医学の利点を活かしながら行う自然医療は、まず山本先生とじっくり話し合うことからスタートするとか。本当の意味での幸せと健康を追求する山本先生にお話を伺った。

~自由診療部を開設した経緯を教えてください~
私は皮膚科医なのですが、皮膚の疾患はアトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、尋常性乾癬など長期の治療を要することが多く、患者さんの中には飲み薬や塗り薬では治らない方もたくさんいらっしゃいます。そういった患者さんに、生活のアドバイスをさせていただきたいなとか、もうちょっとメンタル面で関わらせていただきたいなという思いがあり、診療時間後まで待っていただくことにしたのです。ところが、そうした患者さんの数がどんどん増えてしまったため、週に1回、午後の外来を予約診療としました。これもすぐに飽和状態になり、週に2日に、と予約診療の時間を増やしていったのです。そうやって、患者さんに応えていく中で、自由診療部がスタートしました。

~自由診療部では、どのような診療をなさっているのですか?~
自由診療部が一番大切にしていることは、病気を治すのは自分という意志をしっかり持っていただくこと。そのうえで、患者さんの治癒過程を一緒に歩かせてもらうというのがこの外来です。保険診療では病気を「悪」として捉え、悪い物をどうやっつけるかという発想で病気に向かいます。でも、私たちの自由診療部ではそういった考え方はしません。病気が患者さんにとってどういう意味を持っているのかということを、一緒に解きほぐしていくのです。病気というのは、患者さんにとって決して不利益なことだけではなく、ご自身がもっと成熟したり、大人になっていくプロセスを与えてくれているのです。それをご本人にも納得していただいて、取り組んでいただきます。また、お子さんの病気は、お母さんにとっても乗り越えるべきものとして捉えていただきます。子どもと一緒にお母さんが成長していく機会だということをお母さんに理解してもらうのです。
こうした前提を踏まえて、シュタイナーが提唱した医学、アントロポゾフィーの考え方を基本に、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、バイオレゾナンス、ワイルドフラワーエッセンス、食事療法、鍼といったさまざまな療法を提案しています。また、誰でも考え方のクセがあるのですが、そのクセによって病気を悪化させていないか、といったところに踏み込むこともあります。

~患者さんはどのようにして良くなっていくのですか?~
治療プロセスは、一人ひとり全く違いますが、典型的な事例をひとつご紹介しましょう。長い間アトピーに苦しんでいた方にホメオパシーを処方したところ、次にいらしたときに「私もうアトピーであることをやめました」とおっしゃったんです。「これまで、『アトピーだからこれはできない。アトピーだからそれをしない』と思っていたけど、そうじゃなかった。自分がアトピーであることを理由にして、いろんなことから逃げていたのです」と。それを聞いたときはすごく嬉しかったですね。その後は、アトピーだからできないと思っていたことを積極的になさって、そして急激に治癒していったのです。

とはいえ、誰もが同じプロセスで治るわけではありません。自分を責めていたり、自己否定感が強くて病気を長引かせていることもあります。そういったケースの場合、本当に自分を好きになっていただくためには長い時間がかかることもあります。でも、どんなに時間がかかっても、ここから卒業してもらうことを目標にして診療しています。

~先生は病気予防のための外来を勧めてらっしゃいますが、どんな状態になったら要注意と考えればいいですか?~
休んでも疲れがとれない、長期休暇をとってリフレッシュするといった機会がないといったときは、一度リセットする必要があります。それも、ただ休めばいいということではなく、もう少し深いところから自分の身体の立て直しを始める必要があるでしょう。また、自分の感情があまり動かなくなり、平坦になってしまったと感じたら、心の立て直しをする時期です。みなさん、頑張ることがいいと思って、つい頑張ってしまうんです。でも、人生には頑張れるときと、頑張っても頑張れないときがあるんです。頑張れないときに自分にムチ打ってしまうと、心身のどちらかが病んでしまいます。

人間的な生活というのは、朝起きて「ああ、良く寝た」って思って1日が始まり、仕事が終わって「ああ、ホッとした」と思って、次の活力を得るためにゆっくり過ごすというパターンです。そういうリズムが長期休暇によって取り戻せるなら健全ですが、休んでもそのリズムが戻らないようなら、積極的な身体の立て直しが必要です。崩れたリズムが短期であればあるほど早く立て直せますし、長期になってしまうと病気の中に本格的に進んで行っている可能性があります。

~これから寒い季節になりますが、おすすめのセルフケア術を教えてください~
最近では常識になってきましたが、身体の中が冷えると免疫力が下がります。ですから、特に女性の場合は足が冷えないように注意してください。みなさん足先が冷たいと言うのですが、足先を温めるには、太ももとお尻を温めなくてはいけません。

また、季節を問わず実践していただきたいのは、食べ物をよく味わって食べることです。味わうことは喜びですから、一口一口を味わえば喜びの連続になります。同様に、コーヒーも苦みを味わい、歩くときは一歩一歩地面を感じます。身体を冷やさないよう湯たんぽを抱えたら、湯たんぽの暖かさが身体の中でどう広がっていくかを感じてください。そんなふうに自分の身体に対して繊細になっていくと、自分の身体が今何を感じているのかということが分かるようになってきます。すると、自分にとって嫌なことはせず、自ずと自分を大切にするようになるのです。休みが必要なときは自分で分かるようになりますから、病気の予防にとても役立ちます。ぜひ、この方法を実践してみてください。

<プロフィール>
医療法人社団 山本記念会
山本記念病院 理事長 山本百合子
皮膚科医。大学病院勤務時代、自ら原因不明の体調不良と、それに伴う4回もの全身麻酔手術を経験。自分の病気の原因を見つめる中でホリスティック医療と出会い、医師としての第2の人生がスタート。2003年、実父が創設した山本記念病院の理事長に就任。地域のかかりつけ医療機関として、在宅医療のためのサテライトクリニック、訪問看護・介護ステーション、リハビリセンターを開設。平成16年、自由診療部を開設。ホリスティックな視点による医療を提供し、患者自身が治癒の道を歩いて行くことをサポートしている。
http://www.yamamoto-kinen.or.jp/free_medical/about.html