中村うさぎさんコラム「どうせ一度の人生・・・なのか?」part.56〜万能なる霊的存在は、なぜ人類の悪行を正さないのか〜

自分はともかく、人類全体の未来を憂いてしまううさぎさん。もしも特殊な能力があったり、どこからか人類を見守っている存在がいるなら、愚かな我々人類全体の未来を示唆して欲しいと願わずにはいられず……。

ご存知のように私はスピリチュアルを信じないが、スピリチュアルを非科学的として全否定する気もない。
科学が万能だとも思ってないからだ。

人間の認識能力や思考範囲には限界がある。

科学はその域を決して脱せない。その枠外にこそ重要な何かがあるかもしれないのに。

もしかすると、スピリチュアルの中に、その「科学の限界を超えるもの」が見つからないとも限らない。
が、それを見つけるには、現在のスピリチュアルが抱える「ご都合主義」を排除する必要がある。

以前にも書いたように、万能なる霊的存在などが存在して特定の能力者にメッセージを送り人類を導いているというのなら、どうしてその存在は戦争の止め方を教えてくれないのだ? 貧困や格差の問題、環境破壊とエネルギー問題などの解決策を示唆してくれないのだ?

「あなたにはこんな未来が訪れるでしょう」みたいなきわめて私的なメッセージしか送れないのであれば、そんなのは人類のメンターでも何でもない。
「地球を愛で満たしましょう」的な抽象論しか語らないのなら、「そんなのみんな願ってるよ!」である。願ってるけど方策が見つからないから、この世から戦争や犯罪がなくならないんだろ!

霊能者が異世界の霊的メンターと交信したと主張しても、それが個人ではなく人類全体の役に立たなければ意味はない。私の目には、そんなものは単なる「ご都合主義」に映る。個人の未来なんて、どうとでも言えるし、操れる。人間なんて、霊能者じゃなくたって簡単に操れるんだよ。ヒットラーは霊能者じゃなかったけど、ドイツ人全体を動かしたしね。

「愛で満たそう」なんて主張も、キリスト教が2000年以上も謳ってきた教義だ。そのキリスト教が愛の名のもとにどれだけの過ちを犯してきたか、考えてみて欲しい。「愛の実践」ほど難しいものはないんだよ。「愛」はいとも容易に正当化され利用される概念だ。

そういうことをすべてわかったうえで語られるメッセージであれば、私も耳を傾けよう。今まで誰も思いつかなかった解決策や思想や画期的な視点を提示して私たちの目を開かせてくれるのであれば、私も霊的メンターの存在を信じるだろう。
でも、今のところ、そのような話は聞かない。私が不勉強だからかもしれなので、知ってる人は教えてください。

未来の予見であれば、科学の知識によって、ある程度は可能である。たとえば地球や太陽の寿命は、だいたいのところ予測されている。ある意味、「世界の終末」は天文学的にはわかっているのだ。
だが、もちろん、この太陽系が終わりを迎えるより前に、別の要因で人類は滅亡するかもしれない。
だとしたら、それは何か? 戦争か? 環境破壊か? それを回避する方策は?
そういうことを、もしスピリチュアル系が示唆できるのであれば、どんなに素晴らしいことだろう。

我々は無力で愚かな存在である。

このまま地球の温暖化が進めば、いつか金星のような「死の星」になるのはわかっていながら、いまだに石油エネルギーを燃やし続けている。
どんなに科学者が警告しても、すでに出来上がったシステムや権益を変えることができない。

私はもうね、自分の金運とか愛情運とか、そんなのどうでもいいんだよ。

この先、孤独に野垂れ死ぬ未来が待ってても、べつに構わない。自業自得だしね。
それより救って欲しいのは、人類の未来ですよ。
私には子どもはいないけど、たとえ他人の子どもだって、普通に心配だ。その子たちの暮らす社会や自然環境を整えるのが、私たちの使命だと思ってる。

そんなわけで、スピリチュアルの皆さんには、その力を「人類の未来」に全力投球していただきたい、と願う私なのであります。
お金取って他人を救うのはべつにいいけど、そんなんで「人助け」とか言わないで欲しい。
人類全体を救ってくださいよ。お願いします。

 

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