トラウマや孤独が時に人を殺めることもあるのか!この実話に触れ、自分を振り返る

「事実は時に小説よりも奇なり」を地で行く衝撃の結末

見終わった後、何とも言えない後味の悪さが残った。それは、この話が実話であり、この主人公たちの心の闇が誰にでもありそうなものだからかもしれない。

親からは100%の愛情、兄弟姉妹でのトラブルはなく、家庭は豊か、万事順調なんて人は世の中にどれくらいいるのだろうか?

アメリカの三大財閥と言われる、「デュポン財閥」の御曹司としてジョン・デュポンは、名馬をこよなく愛する母のもとに生まれる。その母の愛が欲しかったのだろうか? ジョンは、学者として、スポーツ選手として、慈善家として社会での強い注目や名声を求めいていた。1988年ジョンは、自らも競技に参加するレスリングのチーム「フォックスキャッチャー」を創設する。

そのために引き抜かれてきたのが1984年ロサンゼルスオリンピック82キロ級金メダリストのマーク・シュルツだ。彼はやはり天才的なレスリングの才能を持ち、妻も子にも恵まれた兄デイヴ(1984年ロサンゼルスオリンピック74キロ級金メダリスト)に常に引け目を感じ劣等感を持っていた。金メダリストにも関わらず世間からの尊敬もお金もない自分……。札束で買われたマークは、ジョンからの特別待遇を受け、プライベートジェット機で移動、時には「友達」と言われ、コカインを進められ断りきれず吸ってしまう。きっとマークは何か違うと思っていたに違いない。けれども、求めいた「アメリカの名声、敬意を払われるべき者」などの言葉や安心できるお金で引きつけられ、ジョンの求めるまま「彼が私のメンタ―(恩師)です」と言ってしまう。

「事実は時に小説よりも奇なり」を地で行く衝撃の結末
兄の庇護を離れて自立への道を進むはずだったマークは、ジョンにコントロールを受けながらも、微妙に関係性を保っていたが、皆の前でジョンに罵倒されて二人の関係は悪化。そこに、兄のデイヴがジョンからの再三のオファーを受けてコーチとしてやって来た。目も合わせようとしない弟の様子の変化に気づき、デイヴは必至のコーチをする。しかし、精彩さを欠いたマークは、「ここを出たい。俺はもう無理だ」と兄に話す。両親が早くに離婚をして、自力で生活をしながら弟を支えてきたデイヴは、ここでも弟を守る。フォックスキャッチャーでの安定した生活は、デイヴにとっても魅力的だった。自分は離れたくはないし、もうお金に切迫する暮らしに戻ることはしたくない。だから、交渉したのだ。自分が残ることで出て行く弟の給与も出すように、と。 1988年のソウルオリンピックでメダルを取れなかったマークは、フォックスキャッチャーを出て行く。おだやかで大人の分別のあるデイヴが残ったフォックスキャッチャーに平和が戻って来るのかと思いきや、ある日、マークと自分が写っているビデオを見終わったジョンが突如デイヴの元を訪れる。そこで起きた突然の射殺という惨劇。

どうしてジョンはデイヴを撃たなければいけなかったのだろう? 最後にジョンが言った言葉の意味は?

お金があっても満たされない。お金がなければみじめだ。世の中に蔓延しているお金という病気。愛されていない、認められていないというよくあるトラウマ。こんなことで、この主人公の三人のうち唯一安定していたデイヴが最後に殺されてしまうなんて……。

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作品タイトル:『フォックスキャッチャー』
公開表記:2015年2月14日、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ロングライド
コピーライト:Photo by Scott Garfield(C)MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督: ベネット・ミラー
脚本:E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー

2014年/アメリカ/135分/カラー/英語/アメリカン・ビスタ/5.1ch  PG-12
公式HP: www.foxcatcher-movie.jp
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