一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.62 「王の涙―イ・サンの決断―」

男同士の濃密な愛情を描いた見ごたえありな韓国

実在の李朝王の暗殺計画を
映画的醍醐味たっぷりに描く感動歴史大作!

(※ご注意。ネタバレあり)
何度か韓国に行った際に目撃した男同士の手つなぎ。最初に見たのは、女子二人、男子二人の高校生風の4人。女子二人が手をつないでいた。うん。これは普通。そして、んっ? 男子二人も手を・・・しかもパーでつないでいる!? 噂には聞いていたが、これが韓国の男子の手つなぎか・・・! とその時は目を見張った。何年後かに行った際にも再び目撃。今度は軍服を来た男子の腕にこれまた軍服の男子が腕を絡めて同じ歩調でずーっと、歩いているという場面。はい。延々後をつけましたが、絡めた腕はついぞ離れることがなかった。両方ともゲイ、というのではなさそうで、ごく自然に友達同士、という雰囲気だった。

韓国では男同士でも普通に手をつなぐらしいのだが、それは男同士の友情とか親愛とかがとても厚いということが言える。現に「グリーン・フィッシュ」とか「ブレス」とか「王の男」とか「サムファジョム」とか、男同士の濃密な愛情を描いた韓国映画は多数ある。そして、本作も実話を基に作られているが、キーは男同士の愛情の話であると思う。それは、王と彼に仕える宦官との切ない愛と信頼の物語なのだ。もちろんそれだけではない、映画的醍醐味に満ちた歴史絵巻であり、素晴らしいアクション大作でもある。

感情を大きく揺さぶられ
巧妙な作りの展開にのめり込む快感

NHKのドラマでも大人気だった「イ・サン」。李王朝22代国王、正祖のことである。彼は李朝五百年の歴史の中でも民主化や政治改革で名君と名高い王だ。しかし25歳で王位を継承後、生涯暗殺の脅威にさらされるという波乱の人生を歩んだ。本作は刺客が王の寝殿まで押し入ったという歴史的な事件にドラマチックなフィクションが肉付けされている。

暗殺決行の20時間前から物語が始まり、時間を追うことで緊迫感がいやおうなく高まりスリリングな展開となっている。

最初、王をめぐる宮廷内の人間関係がややこしくて、しばし「んっ?」となるのだが、敵味方が分かるとすぐに話にのめり込む。そして謎を残す場面が多数あり、伏線が絶妙に張られているので、常に頭フル回転で観ることを要求され、歯ごたえ有りまくり見ごたえ有りまくりなのだ。巧妙に作られた精密細工のように回想を巧く使い、サスペンスフルに物語を構築していて、感心した。観客は王宮のドロドロ劇と王と家臣の情愛、そしてアクション、王の政治手腕、王の孤独の涙・・・と、幾度も感情を大きく揺さぶられることになる。こんなに感情をもてあそんでくれる贅沢な映画は、韓国映画しかないのではないかとも思う。要するに、てんこ盛り、ね。でも、それはなんと精神のリフレッシュをくれることか!

見所はやはり王と宦官の愛と信頼の描写
そして壮絶アクションシーン!!

見所は前述したように多数あるのだが、私はやはり、幼い頃からイ・サンに仕えてきた宦官であり、暗殺者でもあるカプスの王への忠誠と愛。そして、孤独だった幼いイ・サンにとってカプスの存在がどれだけ大きなものであったか、そのカプスが暗殺者と知った時の王の喪失感と悲しみ。二人の心情描写が「切ない」の一言だ。

「暗殺者でなくなったのは、いつからだ?」と何度もカプスに問う王の言葉が今も耳に残る。

それから、ラストの暗殺決行のアクションシーンである。

氷点下の氷雨の中一ヶ月かけて撮影したというクライマックスシーンは、期待以上の役者渾身の壮絶アクションを魅せてくれる。王役のヒョンビンの華麗で強靭な弓さばきには本気で見とれた。ため息もののカッコよさである。血まみれになって暗殺者とバトルする王・・・。強い!んである。兵役を終えてのこれが一作目となるヒョンビンは初の時代劇に挑んだわけだが、なんか、凄みが漂う。ただならぬ想いが感じられた演技だった。

もうひとつ特筆なのが、暗殺の首謀者である、イ・サンの義理の祖母にあたる貞純王后役のハン・ジミンの美貌! 凄まじい美しさなんである。一体何を食べているのか、いないのか?  人間と思えないような肌の美しさ、白さ、透明感、顔の造形の完璧さ、眼の輝き、艶やかさ・・・信じられない美しさだった。かつて王への貢物に「美女」という目録があったという朝鮮。さすがである。

さて、すべて観終わって「久々に『映画』、観たなあ」と感慨深かった。これぞ、『映画』だと思う。

■12月26日(金) TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズなんば、
T・ジョイ京都、2015年2月7日(土) 元町映画館ほか全国順次公開

■配給 ツイン

■監督:イ・ジェギュ(TV「チェオクの剣』」

■出演:ヒョンビン(TV「シークレット・ガーデン」『レイトオータム』)
チョン・ジェヨン(『殺人の告白』『さまよう刃』)
チョ・ジョンソク(『建築学概論』『観相師-かんそうし-』)
ハン・ジミン(TV「イ・サン」)
チョン・ウンチェ(『ヘウォンの恋愛日記』『自由が丘で』)

2014年/韓国/カラー/137分/スコープサイズ/5.1chデジタル/PG12

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