『サルでもわかるハリィー先生のアヴァンギャルドな東洋医学講座』第二話.~人類の医はタッチから~

鍼治療の原初のスタイルから、現代の革命的な鍼治療の進化について、SF映画の傑作と呼んでいい素晴らしい作品を参考にお伝えします。

 

「ふ~ん、なるほど、そうよね、何が衝撃的って、やっぱりあの映画の最初のシーンで、猿人がモノリスに触れるシーンが、わたしには一番印象深いわ」

「そうだね。自分もあのシーンは、すごく衝撃的だったね。ニホンザルなんかがよくみせる生態に『猿団子』という現象があって、ようは寒いときに『おしくらまんじゅう』をするように、仲間同士で身を寄せ合って、その姿がまるでお団子のように見えることから、そう呼ばれる生態があるんだけど、あのモノリスにペッタリと猿人全員がへばりついている姿はまさに、猿人まんじゅう、の様相で衝撃的だったね。
あのシーンのあとに、あの群れのなかの一個体が動物の骨を手にとって、道具に使用することを閃くシーンが続く。暗在系(インプリシットオーダー)のメタファーであるモノリスにアクセスしたことで、閃きのインスピレーションの回路が開けたというプロットだね」

「ふんふん、つまり、モノリスに触れる、モノに触れる、この触れる行為、タッチという所作、この指先、手先になにかがタッチして、そのタッチの情報入力がヒトの意識に何らかの変容をもたらすというその部分にハリィー先生は異様に、興味がそそられているのかしら?」

「異様にって、それじゃあ、なんかちょっと変人みたいじゃない(笑)うん、でも確かに触れる、タッチという行為が人類を進化させ、文明を進歩させた功績は大きいだろうね。というか、恐らくは人類はタッチの蓄積のなかから、脳容量を肥大させ、生き延びるスキルを獲得していったんだろうね。まだ気や経絡やツボなんて概念がない時代に、すでにツボ医療のようなことができたアイスマン。アイスマンがもたらした衝撃もまたハンパないね」

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「ねぇ、先生、でも、アイスマンは本当にツボ医療をおこなっていたと言えるの? たまたま、タトゥーの位置が現在のツボの位置と同じにあったとしても、だからといって、それがそのままツボ医療をしていた事にはならないんじゃない?」

「まあね、たしかに、たまたまなのかもしれない。ただ、シベリアのアルタイ山脈から発見された3000年前くらいのバジリクのミイラの腰にも、同じようにツボの位置にタトゥーがあったし、1万2000年前の先コロンビア文明の遺跡なんかにも、ツボ治療の痕跡が見つかっている。そういった状況証拠からみても、たぶん、アイスマンがツボ治療みたいな事をしていた可能性は大きいね」

「ふ~ん、アタシもアイスマンのネタを知らなければ、原始医療なんてニッチな分野には、まったく興味が湧かなかったけど、ここにきて、ニワカに初期人類が行っていたであろう原始医療に興味が湧いてきたわ。ねぇ、先生、そもそも、原始医療においては、なにがもっとも重大な問題だったの?」

「うん、これは想像だけど、たぶん、まずは怪我の処置が最も重大な課題だっただろうね。切り傷や擦り傷がもとで、それが化膿して、もしも化膿菌が体内で優勢になれば化膿菌の分泌する毒素でショック死する敗血症になってしまう。だから、この傷口の処置、出血部位の滅菌は、生死を決する重大問題だったはずだね」

「つまり、アイスマンのタトゥーが血止めの煤の痕跡だと仮定すると、それはある意味、当然というか、原始人にはそのくらいの事ができて当たり前だったと推定できるってわけね」

「最初は化膿した部分の排膿を促す目的で鍼のようなモノで皮膚を刺す事に慣れていった。それが、いつからか、排膿が目的ではなく、痛み止めのための血抜きの処置、瀉血法に進化した、とすると、この排膿から瀉血への進化は、まさにパラダイムシフトと呼べる原始医療の革命だっただろうね」

「鍼治療の原初のスタイルは、化膿した傷口を排膿するメスのような鍼というスタイルだった。それがある時期から痛み止めの為に局所から少量の血を抜く瀉血療法に変わった。そして、ついには血を抜くことすらしないで、ただ鍼を刺すだけで痛みを止める現代の鍼治療にまで進化した。この初期人類がたどったであろう排膿の鍼から瀉血の鍼への進化も革命的だけど、現代のただ鍼を刺すだけの鍼治療や、刺さない接触鍼の鍼の手法への進化は、排膿レベルの鍼からしたら、もうとんでもない洗練された進歩よね」

「原始医療における鍼治療は、今で言う外科医療の要素が濃厚だった。その外科医療は、今では西洋医学がリードして最先端の技術を花開かせている。でも古代においては、鍼治療が外科医療も兼ねて、原始人類の命を救っていた。これも面白い事だね。そんな外科の要素が濃厚だった原始の鍼が、いまではタッチするだけの小児鍼や、ほとんど刺さない美容鍼にまで進化した。鍼治療もまた『2001年 宇宙の旅』のように、洗練されて、美意識がハイレベルになってきている」

「痛む部位に自然に手が触れる行為を『手当て』と呼ぶけど、原初の『手当て』は敗血症から命を救うための排膿のための鍼だった、という事実は全人類が知っておきべきマストの事実よね。そんな原始の鍼によって、わたしたちのご先祖様は敗血症を逃れて、命をつないでくれた。鍼があったから、人類はここまで存続できたと言えそうね」

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「手当ては手当てでも、生きるか死ぬかの手当ての鍼。そんな生死をかいくぐったなかから、鍼という医療文化が育まれていったんだね。でも、痛いところに手を当てて、タッチケアで気持ちが良くなるというオキシトシン・シャワーの効能の利用は、猿人よりもさらに古いそれこそサルの時代にまでさかのぼるんだよ」

「エッ、タッチケアでオキシトシン・シャワー? サルの時代にまでさかのぼる?」

「次回は愛情ホルモンとして一躍脚光を浴びているオキシトシンに、スポットを当てます」

「サルでもわかっていた(笑)オキシトシンの効能ね。次回も楽しみだわ!」

 

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