『養生アルカディア 凝りを巡る哲学的考察とセルフケア』vol.10

環境から受ける様々な気候変動のストレス刺激。それでも冬はちゃんと寒いほうが、身体がシャンとすることも事実です。日々、実際に気にタッチし、気と触れっているハリィーさんの『刺激的な気論』第四話です。

『気はフレキシブル』

「気を専(もっぱら)らにし、柔(じゅう)を致(いた)し、能(よ)く嬰児(えいじ)ならんか」

これは有名な中国哲学の書物「老子」の一節です。

この一節の意味を少し意訳を加味して解釈すると「気の流れをスムースにし、身体を柔軟にして、赤ちゃんのようなプニュプニュなボディを保てば、イッツ クール!」となります。
たしかに、生まれたばかりの赤ん坊の身体は実にみずみずしく、プニュプニュで凝りなど、まったくありません。

母体内の無重力状態の羊水宇宙でプカプカとたゆとうていたがゆえに、赤ちゃんには凝りなど生じようがないのです。しかし、出産と同時に水生から陸生へと大きな体制変化を経て、少しづつ地球重力1Gの重さが関節や筋肉に負荷されていきます。

20兆個の細胞数で生まれたヒトは、24歳まで細胞分裂を繰り返し、成人になると60兆個の細胞数に到達します。

すると、細胞は分裂からリモデリングへと舵を切り、古い細胞をアポトーシスして、新しい細胞に変換しながら大往生の日まで生老病死の過程を歩みます。

気はヒトが生まれてから死ぬまでのあいだ、常に皮膚の内部を毎秒10センチから30センチのスピードで流れながら、身体髪膚、四肢百骸、五臓六腑を養います。

素粒子レベルの気の粒子性と波動性のエネルギー情報は、分子レベルの細胞内をたやすく貫通できますが、凝りという変性タンパク質の滞積物が、やがて気の流れを阻害する障壁となって立ちはだかります。

つまり、凝りがある部位に気の粒子は自然に集積し、滞(とどこお)り、溜(た)まってしまうのです。そうだからこそ「凝りは、気のかたまり」、「活きた凝りは、パワースポット」なのです。

それゆえに、この凝りを押して、細胞核セントラルドグマに押圧ストレスに応じたヒートショックプロテインを合成できれば、ヒートショックプロテインが「凝り=変性タンパク質」を修復して、元通りのきちんとした形状のタンパク分子構造へと再生します。

その結果「活きた凝り」は「生き返った凝り」となり、凝りの内部に滞っていた気の粒子が次々に動きだして、気がインフレーションにブレイクスルーを開始して、体壁筋肉系の全体が振動して、生まれたばかりの赤ちゃんのようなプニュプニュ・ボディを取り戻すのです!

気は身体内のどこにもとどまることなく、常に動きつづけることで、ヒト細胞60兆個を養うフレキシブルでアンチエイジングなエネルギーです。

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『気はリアル』

今を遡ること184年前、時は江戸時代後期、天保2年(1831年)。

現代において彼の名を知る一般ピープルは恐らくはほとんどいない、その実在の鍼の名医・葦原検校が書いた伝説の医書「鍼道発秘」。

この鍼の道における病気平癒の秘法を説いた書物の中に、鍼を通して気が動く有り様を描いた箇所がございます。

曰く、「鍼の往来、刺の浅深進退遅速動、静緩急、魚鼈の鉤に触るるが如く、鳥銃の炮を発するが若し、通身貫徹、手足胴動……」。

この記載で私が特に注目したいキモが「魚鼈(ぎょべつ)の鉤(こう)に触るるが如く、鳥銃の炮(ほう)を発するが若し、通身貫徹、手足胴動」という後半部分です。

これを意訳を交えてアヴァンギャルドに解釈すると、「鍼治療をしている際に、鍼の先にうごめく気のありようとは、まるでサカナやスッポンが釣り針の先にヒットした際のククッとくるアタリにそっくりであり、また鳥獣を打つ鉄砲が火を吹いて弾を発砲する時のパンッという衝撃にも似ており、その鍼先の気のうごめきは体壁筋肉系の真皮結合織多水層の経絡内を、粒子性と波動性を伴ってブレイクスルーしていき、その結果、手や足や胴体は気の流れるままにインフレーションに振動する」となります。

まさに私が日々の診療において、指圧をし、灸を当て、鍼をするその指先で感じる気の動きとは、この葦原検校が記した記載の通りなのです!

鍼の道に入ってすぐに感じることができた気の動き。しかし、この「気とは何なのか?」を教えてくれる者はひとりもいませんでした。

それゆえに文献を渉猟し、気に関する論説をくまなく読み込みました。その過程で江戸期の鍼医が著した伝説の書物のなかに、上記の気に関する論説を発見したのです!

この一行を読んだとき、私が狂喜乱舞したことは言うまでもありません。葦原検校の気のフォルム、マテリアルの描き方が、あまりに自分が感じている世界とドンピシャ、ビンゴだったからです。

気とは、哲学的で科学的で医学的で実に多種多様なカラフルな側面があり、その働きは、ヒト成人の身体を生まれたばかりのプニュプニュな赤ちゃんボディにリセットできるフレキシブルな能力を秘めています。

でも、そんなカラフルでフレキシブルな気は、指先ではいつも軽快にポップにキュートに、粒子性と波動性を伴ってクォンタム・ジャンプ(量子跳躍)を遊んでいるだけです。

私は鍼灸指圧の治療の場において日々、気と遭遇しているのですが、どちらかというと、私が気を操っているわけではなく、私はいつも受け身で、気の流れに身を任せて、気と遊んでもらっているだけのような気がします。

気と遊ぶことで、あちらも、こちらも生気がよみがえる。

アヴァンギャルド鍼灸指圧師ハリィーにとって炁(き)は、あくまで指先の向こうのリアルです。

 

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