『サルでもわかるハリィー先生のアヴァンギャルドな東洋医学講座』第三話. ～傷の治りとオキシトシン～

ハ「あっ、トリ子さん、そういう実況中継、イイですね（笑）
はい、では、オキシトシンのとっておきの隠しネタ的な多岐に渡る生理学的作用から今回ピックアップするのが、まずは傷の再生修復作用です」

ト「エッ！　傷の再生修復だって？　けっこうビックリだよ、先生。なんなの、その傷の再生修復って。オキシトシンというホルモンがまさか傷の再生修復を促進でもするの？」

ハ「うん、これには、自分もビックリしたんだけど、マウスにオキシトシンを注射すると、なんと傷の治るのが二倍も速くなる場合があることが実験でわかっているんだね」

ト「ヒョエー！　これ、超ビッグニュースじゃん！　ってことは、例えば鍼灸指圧はオキシトシンの分泌を促進するんだけど、だから鍼灸指圧をよく受けていると、傷が出来ても、鍼灸指圧を受けてない者よりも速く傷が治るかもしれないってこと？」

ハ「いやさ、実はね、うちの治療院の常連さんが、このあいだ、夕食後の洗い物でコップを洗っていてうっかり手を滑らして、そのコップを割っちゃったんだ。
その時に親指のところを切ってしまって、けっこうな出血があったんだね。ちょうど、次の日にうちの治療院に予約が入っていて、その指の傷を見せてくれたんだけど……」

ト「オーッ、痛そう！　主婦ならではのケガね。それで、どうだったの？　その傷の治りは？」

ハ「それがね、その常連さん本人が言うには、ある程度の歳になれば傷の治るのは、若い頃に比べればかなり遅くなるはずなのに、経過が非常に良くて、治るのがスゴク速かったんだって。
自分も一部始終を見ていたから、よくわかったんだけど、ほんとキレイに速く治ったんだよ。

でね、その常連さんは、これは定期的にうちの治療院に来て、鍼灸指圧を受けていたから、そのお蔭で治るのも速かったって言ってくれたんだけど」

ト「なるほど、そこでハリィー先生の眉間の中央の第三の眼の内部、松果体あたりに、インスピレーションの閃光がピカッと光ったのね？」

ハ「そう、ジプシーキングスのインスピレーションという曲は、ハリィーの大のお気に入りナンバーだもん、って、そうじゃない（笑）

そう、定期的な鍼灸指圧によりオキシトシンが体内にシャワーのように分泌されていたことで、傷の部位へと血流に乗ったオキシトシンが即座に運ばれて、オキシトシンによる傷の再生修復促進作用により、見事に指の傷が再生修復されたんだろうと、閃（ひらめ）いたんだね」

ト「オキシトシンの生理学的作用として陣痛促進と射乳効果しか知らなかった私には、まさかオキシトシンにそんな傷の治りを速くする効果があったなんて、もう、かなりビックリだわ！」

ハ「そうだね、まだあんまり、オキシトシンが傷の治りを速くするという事は、それほど一般化していないようだね。
というか、ほとんどそんなハナシはこれまで聞いたことがない。あのね、トリ子さん、子供におこなう鍼に小児鍼（しょうにしん）という鍼の手法があるんだけど、これは五寸釘のようなものを面取りしてある鍼を使用して、赤ん坊や幼児や小学生なんかの全身の肌を、羽毛で撫でるようにソフトにフェザータッチの要領で、軽くさすってやる鍼なの。

でね、子供で手術なんかを受けた場合も、小児鍼をやった子の方が、断然に手術の傷の治りが速いことが、ある外科医の経験で確認されているんだね。
だから臨床的には、すでに鍼灸指圧による傷再生修復促進の作用は知る人ぞ知る的な現象だったんだね。
でもそこにオキシトシンという分子メカニズムの説明をはさむことで、俄然、こうした経験則が説得力を持つようになるわけ」

ト「な～る、先生の仮説は常にそうした分子レベルの科学的説明をもって人々に訴えるから、いつも感心しちゃうのよね。
だからこそファンが多いのよね。ワタシ的にはそんなハリィー先生の啓蒙スタイルは、いつもドンピシャでツボだわ」