女ひとり旅、それも220km徒歩で聖地「熊野古道」を目指す!「歩く旅の本 伊勢→熊野」 PART.1

今年、式年遷宮が行われる「伊勢神宮」から
世界遺産「熊野古道」を、女子、ひとり行く!

スペイン・サンティアゴ巡礼路1,000km踏破で、「歩く旅」の魅力に気づいた著者が、伊勢神宮~熊野本宮大社まで、世界遺産・熊野古道、「伊勢路」220kmの道のりを歩き抜いた、使える旅エッセイ! 灼熱の太陽のもと、執拗なアブ軍団に追い回されたり、さびれた峠にビクビクしたり、地元の人に「失恋したのか?」とからかわれたり…。笑いあり、涙あり、人情ありの珍道中。その先に見えた景色とは?

なぜ人は聖地・熊野を目指すのか? 歩いたことで出逢えたものとはなんだったのか? 独特の笑いと涙をさそう文体に、思わずひきつけられてしまう傑作! 抱腹絶倒、涙、涙の最高級旅エッセイ!

スペイン・サンティアゴ巡礼路とは?


サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は、キリスト教の聖地であるスペイン、ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路。おもにフランス各地からピレネー山脈を経由しスペイン北部を通る道を指す。最終目的地は、スペイン北西部、大西洋にほど近い街、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」。

サンティアゴ・デ・コンポステーラには、聖ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)の遺骸があるとされ、ローマ、エルサレムと並んでキリスト教の3大巡礼地に数えられている。

熊野古道とは?


熊野古道(くまのこどう)は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へと通じる参詣道の総称。紀伊半島に位置し、道は三重県、奈良県、和歌山県、大阪府にまたがる。
熊野古道とは、主に以下の5つの道を指す。
① 紀伊路(渡辺津-田辺)
② 小辺路(高野山~熊野三山、約70km)
③ 中辺路(田辺~熊野三山)
④ 大辺路(田辺-串本-熊野三山、約120km)
⑤ 伊勢路(伊勢神宮-~熊野三山、約220km)
これらの多くは、2000年に「熊野参詣道」として国の史跡に指定され、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部としてユネスコの世界遺産(文化遺産における「遺跡および文化的景観」)として登録された(今回、著者が踏破したのは「伊勢路」)。熊野周辺は、日本書紀にも登場する自然崇拝の地であった。907年の宇多法皇の熊野行幸が最初と言われる。

熊野三山への参詣が頻繁に行われるようになったきっかけは、1090年の白河上皇の熊野行幸からと言われている。白河上皇はその後あわせて9回の熊野行幸を行った。これにより京都の貴族の間に熊野詣が行われるようになった。その後、後白河上皇も33回の熊野行幸を行っている。江戸時代に入ると、伊勢詣と並び、熊野詣は、広く庶民が行うようになったといわれている。一時は、熊野付近の旅籠に1日で800人の宿泊が記録されたこともあったという。

今話題の本書から、とっておきのページを一部ご紹介します!

鼻歌まじりで歩いていたら信じられない看板が……!


「『佐甫道』は土砂崩れのため、現在、通行不可となっています。古里歩道トンネルを通って下さい」
な、なんということ! ここでは半島沿いの遊歩道をきれいな景色を見ながら歩けると楽しみにしていたのに、一人でトンネルを歩いて通れと!? こ、怖すぎる……。熊野古道、やはり鼻歌まじりでは歩かせてくれないのか。

恐怖に呆然としつつも、数歩先にある「古里歩道トンネル」を覗いてみた。一応電気はついているものの、蛍光灯が弱っているのか、それともトンネルに対して蛍光灯の数が足りないのか、ほんのりと薄暗い。しかも真夏の真っ昼間だというのに、トンネルからはひんやりとした空気が漂ってくる。見てるだけで怖くて泣けてくる。とても行く気になれない。

ウロウロと5分ぐらい考えたあげく、なんだかどうでも良くなってきて、トンネルを歩くことにした。とはいえやっぱり怖い。だから怖い雰囲気が消えるように、iphoneでGreenの「キセキ」を最大音量でかけ、お守りを握りしめ、覚悟を決めてトンネルに入った。歌う、というより怒鳴るに近い大声で、iphoneに合わせて「キセキ」の歌詞を叫び、変なモノを見ないようにひたすら真っ正面を見据え、無心で歩いた。いや、走った。「火事場のバカ力」というやつだろうか。すでにここに来るまでに峠を1つ越え、それなりに疲れていたはずなのに、10数キロのザックを背負ったまま走った。トンネルを抜けた後も走った。放心状態で走りつづけた(考えてみると、トンネルから大荷物を背負った女が怯えた形相で「キセキ」を歌いながら走って来たら、そっちの方がよほど怖い気もするが……)。
とにかく私は走り続けた。そして、普段だったら絶対入らないような国道沿いの渋い喫茶店に逃げ込んだ。

始神峠の頂上は見晴らしが悪く、まったく頂上っぽくなかったけれど、それでもほっと一安心。あとは下るだけだ。そう思ったら景色を楽しむ余裕も出てきて「結構綺麗な道だな~」なんて鼻歌まじりに下って下って、降り口に着いた、ら……。なんだか見たことがあるような景色が広がっている。「デジャブ? いやいや、きっとこの辺は地形が似ているから景色も似ているんだろう。そうに違いない。さて、次はどっちに行けばいいのかな?」と、右上の信号機を見て我が目を疑った。

『始神峠入り口』
えええーーーー!? !? なぜーー!? なぜさっき見た『始神峠入り口』の信号機があるんだーー!? !?
軽く目眩を感じつつ、あらためて景色を見回す。間違いない。目の前に見えているのはさっき歩いた国道だ。『始神峠』というだけあって、神隠しにあったのか!? でも、私、もう一回行く気力ないよ……(ガックシ)。だいたい、地図の通り歩いたしーー!! 思考停止……。

~PART.2へつづく~

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福元ひろこ ( ふくもと・ひろこ)
文筆家。東京都出身。早稲田大学卒業後、セツ・モードセミナー卒業。会社員を経て、2003 年、有限会社3Way 設立。スペインのサンティアゴ巡礼路約1,000 km を歩いた体験から、歩く旅が持つ可能性に関心を持ち始める。「歩く旅をする人が増えると平和な世界に近づく」を信念に、世界中の道を歩くことをライフワークとしている。現在は、特に日本の道を国内外に発信し、世界中の人々が平和に交流できる場とすることを目指している。
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「歩く旅の本 伊勢→熊野」
著者:福元ひろこ
価格:1,890円(税込)
出版:東洋出版