一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.18 タイプ早打ち大会で優勝を目指すヒロインの恋と成功物語

1950年代のフランス。田舎から秘書を夢見て出てきたローズは、得意の指1本での早打ちタイプで晴れて保険会社に採用される。しかし、タイプ以外はからっきし仕事が出来ず、一週間でクビに。だが、社長のルイはローズに意外な提案を持ちかける。それはルイがコーチをし、タイプの早打ち大会に出て共に優勝を目指そう!というもの。かくしてローズとルイは、タイプ世界大会を目指しスポコン張りの猛特訓を始めるのだった……。

野獣系ヒロインの威嚇に白熱のタイプ乱れ打ち!
女の戦いは激しく怖いのだ!

女性のピアニストというのは、優しい曲も物凄く激しく、情熱的に弾く人が多いそうだ。変わって男性ピアニストは優しく繊細に表現する人が多いとも聞く。常々思うのだが、女性は男性より断然強いし、激しいものを内に秘めた生き物だと思う。その思いを改めて強くした場面がある。この映画で一番面白かったシーンだ。
ローズが地方大会を勝ち進み、フランス大会で三連覇を狙う女王と対戦する時。ローズは相手を睨みつけて頭を振り、鼻息荒くタイプに挑みかかる。まるで闘牛士に立ち向かう牝牛だ。

ロンドン五輪でも、柔道で金メダルを取った女性選手が、対面時から相手を睨みつけて飛び掛らんばかりの迫力で野獣とか言われていたけど、まさにそれ。相手を威嚇する様が女性の剥き出しの闘争心をストレートに表していて、柔道もタイプも同じだと、妙に可笑しかった。これは男性の場合だとちょっとニュアンスが違うんだな。女の戦いはやはり怖いのだ、というのが面白いのだ。
しかも、タイプの戦いシーンはどれも迫力で白熱状態!こちらも力が入る。タイピストと同じく前のめりで息を止めて見入ってしまう。まるでスポーツ観戦状態。

デボラ・フランソワのドジで明るい定番ヒロイン
フランス風ロマンスは時に?

本作は田舎娘のローズが勝ち進んでいくごとに垢抜けて綺麗になっていくというシンデレラ・ストーリーでもあるのだが、彼女がとっかえひっかえ着る50年代ファッションがキュート。ちょっとローズ役の女優が男優(ロマン・デュリス、煙草吸い過ぎだ!でも、本作ではカッコいい)より大柄なのが気になるが、この女優、なんとタルデンヌ兄弟の「ある子供」(05年)で凄い演技でデビューしたデボラ・フランソワなのだ。えーっ! こんな役もできるんですねー!と正直びっくり!真面目そうな、日本人の女優にもいそうな顔が親近感を感じさせる。しかし、時にフランス映画って、どうしてそこでそんなに怒るの!? とか、なんでそんなセリフ? と思うことがよくあるんだけど、本作も何度かそういうシーンがあって、フランス人て? と楽しめた。

才能はひとつでいい、と教えてくれる。
フランス映画のセリフの粋

スピリチュアル的な視点では、ローズが地方大会であっさり予選落ちしてしまい、「私はタイプしか才能がない」と落ち込むところで、ルイが「才能はひとつあればいい」と励ますシーンで私は「おおっ!」と密かに感動した。そう、才能はひとつあればいいのだ。そして、人は必ずひとつは才能がある。才能を「良いところ」と変えてもいい。やはり、フランス映画はセリフが気が利いている。ピリリとさり気ないシーンで人生や人間の真理を散りばめて薬味が効いている。ハリウッド映画とは違ったテイストに自分の中の価値観を気づかせてくれるフランス映画、大好きだ。

「タイピスト!」
監督・脚本/レジス・ロワンサル
脚本/ダニエル・プレスリー&ロマン・コンパン
出演/ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
8月17日(土)~全国順次ロードショー
■「タイピスト!」 公式HP
http://typist.gaga.ne.jp/
■フランス映画祭 2013
http://unifrance.jp/festival/2013/ 

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