ダライ・ラマ法王が語る、やさしい心とは? 第3回ダライ・ラマ法王東京講演

ダライ・ラマ法王猊下「私達の幸せを考えてみると三つのことがあげられます」

3回にわけてご紹介したお説法もいよいよ最後。やさしい心の持ち方、在り方について考えさせられます。

<※一部割愛している部分があります。ご了承ください。>

「私達にはこの世に生まれ落ちてすぐ、新生児の状態で私達を大切にケアし、育ててくれる母が存在します。その相手を母と認識する前の段階から、非常に肉体的なレベルにおいて、母という存在、父という存在に完璧に頼りきっています。父や母が私達のことを大切に慈しんで育ててくれることによって、他人からの愛というものを得て、幸せになれるのです。

仏教で大事とされる愛であるとか慈悲とか、思いやりという言葉があります。

サンスクリット語で「カヌーナ」といいます。これは私達人間にとって大変大切な要素となっています。これは頭で理解するものではありません。私達は愛や思いやりに完璧に依存している存在です。私達はこの世に生まれ落ちてすぐ、両親に大切にケアされますが、その存在が父であり、母である、と認識する前からそのぬくもりに頼りきっている。両親の胸に抱かれ、育まれることで新生児の私達は安心感を得ます。
そして安らかな眠りに落ちることができます。私達は他人からの愛なしには生きられません。そしてそれによって幸せになれるのです。母という存在は妊娠期間中に、不愉快な思いや苦しいつわりなどさまざまな苦難に見舞われるわけですが、生まれてくる私達を大切な宝物のように扱ってくれます。

そして生まれ落ちたその後も、2、3年の間は完璧に愛情を注ぐことだけに集中してくれます。これらの子どもに対するケアというのは他の動物には見られません。誰かから指図をされても決してできるものではないからです。そして母親は自ら望んで、喜んでその責任を全うしようとします。

赤ん坊もそのような深い愛情に育まれて育つと、より愛情深い優しい人間になります。その後の人生も他の人に愛を注げる人間となります。

 

しかし、新生児のときに母の愛を十分にうけることができないと、その後の人生に思いやりを持ちにくい人間になってしまいます。私達がなによりも必要としてるのは愛情、やさしさ、思いやりです。より多くの愛情を注がれた子どもはもっと多くの愛を注げる人間になります。人は愛がなれば生きていけない、人にとって愛情は必要不可欠です。
私達人間は社会生活を営む動物で、一人では生きられません。自分の世界のほかに、他のメンバーの世界に依存しながら生きていくのですから、愛ややさしさ、思いやりは大きな要素になります。社会の一員として、他のメンバーを助けていかなくてはならないのですから。相互依存によって成り立っているのだから、協力して生きなければならない。そこで必要なのが愛や思いやりで、私達を結びつけ、お互いを協力させる大事な感情です。
怒りや憎しみはお互いを排除させる感情。こういった悪い感情は必要ではありません。この世界には60億人の人間が住んでいるのですから、地球という大きな共同体のメンバーの一人として協力していかなくてはいけません。みんなが生き延びていくためにはお互いがお互いを大切にし、ケアすることが必要です。でなければ一人ひとりの生存も成立しなくなる。

そして、私達の幸せを考えてみると三つのことがあげられます。第一にやさしさや、思いやりといったよき心を育むこと。そして第二に人間同士の友好的な人間関係。よき友達を育むこと。そして第三に経済的なことが考えられます。このなかでもし一つだけ大事なものを選ぶとしたら、一体なにを選べばよいでしょう? 愚かな人は「まずお金」と答えるでしょう。第一にあげたやさしさや思いやりがあれば第二、第三の要素もついてくるのです。だから賢い人間であるなら、第一の思いやりを選び、そうすればよき心によって良きことがなされるでしょう。やさしさや思いやりはすべての土台になっているのです。そういう心を持つことによって自分の心が健康にもなれ、良き友を得られます。自分自身の繁栄や栄華を求めるのであれば、他に対する思いやりをもつことが、最善の方法である。

こう話すと宗教を信心している人がなすべきことだと思う人がいるかもしれませんが、それは全く間違った認識です。愛や慈悲を育む修行というのは、他の人にとっては役立つことであっても、自分にはなんにもならないと思うかもしれません。それも間違いです。というのも愛や慈悲の心を自分のなかで持ったときから、自分自身が心の平和を得て、よい結果として見返りがやってくる。もっと自信をもって人間としての優しい心をより深めていってほしいと思います。そして心を育むためには教育が必要です。幼稚園から大学に至るまで、教育機関を通してやさしさや思いやりがいかに重要であるかを、教育者が教育を通してすべての子どもたちに伝えていってほしい。私が伝えたいことはそれだけです」。

やさしさや思いやりの心があれば、良い人間関係もお金もついてくる。考えてみれば当たり前のことなのかもしれませんね。お説法の最後に、会場の方からの質問にお答えになられたのですがそのやりとりを一部ご紹介します。
法王のお返事がコントのツッコミのように早かったので、会場は爆笑の渦に。そしてこんな風にお答えさないました。Q「私にはなにか悪い霊がついてるようなんです。どうしたらいいですか?」
A「…I don’t know! next!」

法王「これは悪魔とか悪霊などそういった存在のことだと思うのですが、仏教徒としてはそういったものは気にする必要はないと思います。要するにもっと大切なことや気にすべきことが人生にはあります。他人に迷惑をかけない、他の者を害さない、そしてもしできるなら他人のためになにか良いことをする。そうすることで人生に意味が出てくるのではないでしょうか? 他人の邪魔ばかりをする、人を傷つけてしまう、そんなことばかりをして人生を終えても何の意義もありません。誰かのためにいいことをした、という満足感を得られることこそ、人生に意義が出てくるのではないでしょうか?」

 

 

 

 

 

有意義に生きるなら、誰かのために良いことをする。簡単なようでなかなかできませんが、できることからはじめてみましょう!

(2006年11月10日両国国技館にて・撮影/浦田ケイ子)