悪神? それとも穢れを祓う善神? 議論が続く禍津日神

彼は禍津日神というのは、「人の心にある荒魂的な存在である」としました。つまり、穢れそのものではなく、「穢れを憎み、悪を憎む強力な存在である」としたわけです。これならば、祓戸神や天照大神のひとつの側面というのも納得がいきます。

【良い神様と悪い神様】

神様にも、「良い神様と悪い神様」が存在しています。日本には八百万の神と呼ばれるほど、様々な神様が存在しており、それらは「自然を具現化したもの」が中心となっていますが、中にはちょっと怖い名前の神様もいます。それが「八十禍津日神(やそまがつひのかみ)」と「大禍津日神(おおまがつひのかみ)」。「禍=わざわい」ということで、文字通り「禍々しい」イメージがあります。

 

【穢れから生まれた神様】

実際、この神様は、伊弉諾尊が「黄泉国から戻ってきた時」に、川で禊ぎをすると「黄泉の穢れから生まれた」という存在です。穢れから生まれたこともあって、「穢れを具現化した存在=ネガティブな存在」と考えるのが一般的といえるでしょう。しかしながら、この二柱の神様が果たして、悪い神様なのか、それとも実際には良い神様なのかについては、「長い間議論が続いている」のです。

 

【人生の災厄と幸福は神が操る】

当初は名前通り、「禍った=曲がった神」であるとされて、「災厄をもたらす神」であると考えられていました。さらに、その働きを「人生における悪いこと全てをもたらす、すなわち避けようのない不運をもたらすもの」であるとしたのが、有名な国学者である「本居宣長」でした。

八十禍津日神・大禍津日神と対比されるものとして、「神直毘神(かみなほびのかみ)」と、「大直毘神(おほなほびのかみ)」という二柱の神様がいます。こちらは、災厄がもたらされたあとに、それを「直す」、すなわち元に戻す神威があると考えられていました。このことから、本居宣長は、「人生の悪いことは禍津日神がもたらし、良いことは直毘神がもたらすという、ある意味で運命を司る二つの要素」として定義したわけです。

その一方で、禍津日神には「祓いの力」があるとも考えていたようです。祓戸神の一柱である瀬織津姫神は、文字通り祓い浄めの力を持っている存在ですが、天照大神の荒魂であり、なおかつ禍津日神とも同一という説も唱えているのです。

255656932

 

【心の中の悪を憎み祓う神】

こういった議論を、さらに一歩進めたのが「平田篤胤」です。彼は禍津日神というのは、「人の心にある荒魂的な存在である」としました。つまり、穢れそのものではなく、「穢れを憎み、悪を憎む強力な存在である」としたわけです。これならば、祓戸神や天照大神のひとつの側面というのも納得がいきます。

基本的には、この二人の説をベースにして、果たして禍津日神は悪神なのか、善神なのかという論争は今現在まで続いており、結論ははっきりと出ていません。しかしながら、禍津日神を字面から、単純に悪神としてしまうのは、少し無理があるように思えます。この神様が生まれたあとに、天照大神が岩戸に隠れるという、日本の神話では一大イベントともいえる出来事があります。そこで、妖しい神、悪神の表現として「五月蝿なす」という言葉がでてきます。こちらにも様々な解釈があるのですが、天照大神が隠れて世界が暗くなったことで、多くの「悪い神が声がうるさいほどあふれ出た」というような意味合いとなっています。

216474817

 

【穢れを支配する神】

もしも、禍津日神が悪神であったならば、このような非常事態に言及されないというのはちょっとおかしいような気がしませんか? そもそも、穢れた存在自体は「禍津日」であり、禍津日神といった場合は、「穢れを支配する神」ではないかという説もあります。確かに「大山祇神(おおやまつみのかみ)」や「大綿津見神(おおわたつみのかみ)」は、それぞれ山と海を収める神ですので、「大禍津日神」は邪悪なものを収める神様とするのが自然でしょう。

このことから、禍津日神を「穢れを祓う存在や、悪いことを良い事へと変えてくれる存在」として祀っている神社も多く存在しています。名前からすると、ちょっと怖いと思ってしまうかもしれませんが、内外にある邪悪な存在を制御し、それらを祓ってくれると考えると禍津日神はもっと注目され、多く祀られてもいい神様といえるでしょう。

皆さんは、今回の記事を読んで、禍津日神をどう思いましたか? 心強い存在だと思った方は、数は少ないものの祀られている神社は存在していますので、是非足を運んで、その神威を体感してみてくださいね。

Bad God? Or good God?
God me luck changed the misfortune.

 

《ベーターくん さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/betar/?c=78809

 

(トップ画像・ウィキペディア)