〜 地中海の宝石・マルタを守った聖ヨハネ騎士団 〜 感情美人への道Vol.111

敵は数倍! イスラム教のヨーロッパ侵攻を食い止めた『聖ヨハネ騎士団』

聖ヨハネ騎士団とは

前回・前々回と、マルタ共和国の魅力をご紹介させて頂きました。
今回は、マルタを理解する上で外せない『聖ヨハネ騎士団』について解説します。

歴史を知っているだけで、観光も数倍面白くなりますよ。

聖ヨハネ騎士団は、ヨーロッパのそれぞれに違った8つのラングエ(言語)によって編成されていました。

オーベルニュ(仏中南部地方)、プロヴァンス(仏南東部)、フランス、アラゴン、カスティリヤ(スペイン西部地方)、イングランド、ドイツ、イタリアです。

聖ヨハネ騎士団のシンボルになっている「マルタ十字」と呼ばれる8角形の十字架は、この8つの騎士団の象徴であり、十字の腕部分は、騎士団の4つの美徳「思慮深さ・謙遜・剛毅・正義」を表しています。

聖ヨハネ騎士団は、ヨーロッパでも名門な貴族の出身者で構成されており、聖地エルサレムに向かう巡礼者を守るために11世紀に設立されました。
そしてエルサレムがオスマントルコ帝国によって征圧されてから、騎士団の軍事色が強まります。
騎士団は、外人部隊で構成される宗教的戦士だったのです。

騎士団は戦いに破れた後、エルサレムを追われロードス島へと流れ、そこで再びオスマントルコと戦い、そこを逃れて1530年に辿り着いたのが地中海の中心にある「マルタ島」だったのです。
この小さな島は、東西に行く全ての船が通る海峡を支配する地中海の要石でした。
マルタ島は東西の貿易ルートを支配していただけでなく、イスラム教とキリスト教が対立する最前線でもあり、必然的にマルタはキリスト教の要塞となりました。

 

マルタ大包囲戦勃発

そして1565年5月18日、ついにオスマントルコ帝国はマルタ島へ攻めてきました。
この戦いを「大包囲戦」と呼びます。
現在は風光明媚な観光地となっている聖エルモ砦ですが、約180隻の敵の艦隊が扇形に広がってこの青い海を渡ってくるのですから、聖ヨハネ騎士団とマルタの島民の心情は察するに余りあります。

トルコ軍は総勢4万とも言われ、その中には妻帯も禁止され戦闘のみに生きる精鋭部隊「イエニチェリ」も6300人含まれていました。
対する騎士の数は、僅か900人!それに島民やマルタ人の不正規兵を合わせても約9000人しかいませんでした。

シチリアからの援軍は、頼んでもなかなかやって来なかったのです。

 

英雄 ラ・バレッテ

この状況で全体の指揮を取ったのが、騎士団長のラ・バレッテです。
彼は20才の時に騎士団に入り、大包囲戦の時すでに70才に達していました。

「背が高く非常にハンサムで、常に冷静。数カ国後を流暢に話す」と評される彼の前半生の運命は実に過酷で、1541年には戦闘で重傷を負い、なんとトルコのガレー船の奴隷にされてしまったそうです。

しかしその過酷さを生き抜いた肉体的な強さと精神的な強靭さが、マルタ大包囲戦での指揮には必要だったのでしょう。
騎士団は彼の作戦を忠実に実行し、本拠地聖アンジェロ砦を守り抜いて勝利を治めました。

 

要塞都市バレッタの構築

大包囲戦後、バレッテは今後のトルコの攻撃に備え、強固な要塞を聖アンジェロ砦の反対側に建築する事にしました。
それが今のマルタの首都・バレッタです。

もうお分かりですね。

バレッタという名称は、彼の名前からとっているのです。
そしてこの要塞都市の真ん中に、聖ヨハネ騎士団の礼拝堂を作る場所が用意されました。
それが現在大人気の観光スポットになっている『聖ヨハネ大聖堂』です。

騎士達が眠る墓石には生前の偉業に加え、骸骨が描かれているものも多数。
これは肉体を持った生の終わりと、永遠の命の始まりを表しています。

 

聖ヨハネ騎士団のその後

オスマントルコが敗れた事で、マルタ島はキリスト教徒にとって『信仰の防波堤』としても知られるようになり、騎士団長のバレッテは各方面から大きな賞賛を受けました。

しかしその後、平和な時を享受するうち騎士団の士気は段々と低下し堕落していったと言われています。そして1798年、エジプト遠征の途中でマルタに立ち寄ったナポレオンに簡単に占領されてしまいました。

騎士団が主に活躍したのは16世紀が中心となりますが、キリスト教への厚い信仰と死を恐れずマルタ島を守り抜いたという騎士団の歴史は、今もこの国を訪れる人達の好奇心を掻き立てます。

参考資料
『まるごとマルタのガイドブック』亜紀書房 林花代子
『地球の歩き方マルタ』ダイヤモンド社
『マルタ島大包囲戦』元就出版社 アーンル・ブラッドフォード
聖ヨハネ大聖堂オーディオガイド

 

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