中村うさぎさんコラム「どうせ一度の人生・・・なのか?」 part.15 私には動物霊が憑いている!?

その坊さんに会ったのは、私が30代半ばくらいの頃だから20~25年くらい前のことだ。
友人から熱心に誘われて、一緒にその霊能者だとかいう坊さんに会いに行った。
友人は当時、不倫の恋に悩んでいて、その相談やら仕事の相談やら、いろいろと坊さんにアドバイスを乞うていたらしい。

動物霊が憑いています!

動物

総武線だか何だかに乗ってコトコトと、はるばる東京の端っこのほうまで行った。
お寺に着くと座敷に通されて、そこで友人が私を紹介した。
と、その途端!
坊さんは無言で立ち上がると座敷を出て行き、しばらくして庭の方からザァザァと水の音が聞こえてきた。

「水垢離してる!」
友人が私の耳元で囁いた。
「こんなこと初めてだよ! 会った途端に庭で水垢離するなんて!  あんた、よっぽど悪い霊が憑いてんじゃない?」
「ははは!」
私は思わず笑ってしまった。
何故なら、この友人は普段から何でもかんでも霊のせいにするので、彼女の言葉を真に受けたことがなかったからだ。
以前は「こないだ買った中古車から変な音がする。絶対、霊が憑いてる!」と大騒ぎしてお祓いだの除霊だのした挙句、単なる整備不良だった。
除霊するより先に整備工場に持ってって点検してもらえよ!

と、まぁ、こんな状態だったので、坊さんが着替えて戻ってきた時も、私はヘラヘラしていた。
すると、坊さんは私をじっと見つめて曰く、
「動物霊が憑いてますね!」
「はぁ?」
「普通、人間の霊が憑く人には動物霊が憑かず、動物霊の憑きやすい人に人間の霊は憑きません。あなたはどうやら、動物霊に好まれやすい人のようだ」
「そうなんですかぁ。で、何の霊なんですか?」
「一種類ではありません。何種類もの動物の霊が、たくさん憑いています」
「おお!」
なんじゃ、そりゃ!
私は「歩く動物霊園」だったのかーっ!
自分の背後に象やら鹿やら猿やらの霊がひきめきあってパオーンだのウキキーッだの騒いでる光景を想像して、つい笑ってしまった私である。
なんか、めっちゃ楽しそうなんですけど!

 

動物霊がわんさか憑いてるとしてもよ、べつにそれで迷惑かかってないんだからいいじゃん!

animal55

「あなたの中は、動物霊たちにとってとても居心地がいいようです。それで、吸い寄せられて棲みついてしまってるんです」
坊さんは重々しくそう宣言した後、私に向かってこう尋ねた。

「どうしますか? 今ここで除霊いたしましょうか?」
「いや、いいです!」
即座に私は答えたね。
「私、こいつら飼ってるんです!」
「え?」
「いや、動物霊が憑いてるのは知りませんでしたけどね、でもさっきおっしゃったでしょ、私の中が居心地いいんだって。そんなら、ずっとここにいればいいです。追い出しちゃったら、この子たち、行き場所がなくなっちゃうじゃないですか!」
「…………」
「そんなにたくさんの動物霊、一朝一夕に憑いたわけじゃないですよね?  今まで長い間、私の中に棲んでたんでしょ。でも、だからって私、これまでべつに何の支障も感じなかったし、これからも仲良く共存していけばいいと思います。そんなわけで、除霊は結構です!」

「あんた、バカじゃないの?」
坊さんのところを辞して帰る途中、友人が呆れて言った。
「なんで除霊してもらわなかったのよ? 変な意地張っちゃってさ」
「いや、ほんとにいいんだもん。まぁ、基本的にそういうの信じてないけど、百歩譲って本当に動物霊がわんさか憑いてるとしてもよ、べつにそれで迷惑かかってないんだからいいじゃん!

私を説得できる霊能者の方がいらしたら、ぜひお会いしたいです

中村うさぎ コラム

私の考え方はこのとおりである。
仕事にしろ恋愛にしろ何にしろ、自分の問題はほとんど自己責任なので、自分で何とかするつもりで生きている。

そりゃ、うまくいかないこともあるけど、それが霊のせいだとは思わない。
もし霊が私に憑いてたとしても、そいつも何らかの理由があって私を選んだんだろうし、そんなら行き場所が見つかるまで私に憑いてりゃいいじゃん。
べつに気にしないよ。
人は生きてる間に、いろんなものを背負わなきゃならない。
霊だって、もしかすると、背負わなきゃいけないもののひとつかもしんないでしょ。
そんなら、背負ってやろうじゃないの!

霊がいるかどうかよりも、私にはどう生きるかのほうが重要だ。
霊がいようといまいと、自分の生き方は変わらないの。
生きてりゃいろいろあるけど、ほとんどは自分で乗り越えなきゃいけない問題だと思ってる。
だから霊のせいなんかにしたくないし、自分の人生には自分で責任取りたいんだよ。
そうでなきゃ、私たち、なんのために生きてるの?

以上が、私の基本的なスタンスである。
こんな私を説得できる霊能者の方がいらしたら、ぜひお会いしたいと思っているので、よろしくお願いします。

 

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