インドのカルカッタの修道女として、貧しい人たちに仕えたマザー・テレサ。
亡くなった後もさまざまな本が出版され、彼女の言葉が数多く残されています。
どれも深い愛情にあふれ、人々の胸を打つ素晴らしい言葉です。
マザー・テレサの信条は、愛を込めてひたすら与えることでした。
それは、自分の全エネルギーを、貧しい人たちの救済に捧げ続けたことからもわかるでしょう。
自分自身が得ることにはほとんど関心を持たず、彼女の持ち物は質素なサリーとサンダルだけであったといわれています。
マザー・テレサの与える気持ちとは、どのようなものだったのでしょうか。
残された言葉から、それを探っていきたいと思います。
マザー・テレサに感動を与えた人たち
マザーの言葉を、「マザー・テレサ 愛と祈りの言葉」(PHP文庫、2000年)から抜粋します。
「私がお願いすること。飽くことなく、与え続けてください。しかし残り物を与えないでください。痛みを感じるまでに、自分が傷つくほどに与え尽くしてください」
「与えることを学ばねばなりません。でも、与えることを義務として考えるのではなく、与えたいという願いとすることが大切です。
余った物、残り物は要りません。私たちが仕えている貧しい人たちは、あなた方からの憐れみも、見下すような態度も必要としていないのです。彼らが必要としているのは、あなた方の愛と親切なのです 」
このように、経済的に余裕のある人が余っている物やお金を与える、ということは、あまり評価していませんでした。それより、どれだけ少量のものであっても、痛みを感じてまで与える姿勢が尊いのだ、ということを伝え続けたのです。
それは、心に貧しい人たちへの愛情がなければ、できないことだからです。
マザーが感動して、よく話す出来事がいくつかあります。
カルカッタが砂糖不足に陥ったとき、マザーのところに小さな男の子が、小さな入れ物に入った砂糖を持ってきた……ということがありました。
その男の子は、「僕は3日間、砂糖を食べるのを我慢したんだ。これがそのお砂糖。マザーのところにいる子供たちにあげてね」と言ったのです
この子供の深い愛情に、マザーはいたく感動したのでした
また、8人の子供がいる家族が何日も何も食べていないという話を聞き、マザーがその家に、お米を持っていったことがあります。すると母親がお米を受け取ると、それを半分に分けて、すぐに隣に住んでいる家族に持っていったのです。隣にも8人の子供がおり、何人も食べていなかったため、母親はわずかなお米をためらうことなく分け与えたのでした
このように、まるで自分の一部を切り分けるようなことができるのは、心に深い愛情があるからこそなのです。
自分が満たされていなければ、人に与えられないのか
よく、「自分が幸せでなければ、人に何かを与えることはできない」と見聞きします。
それは、まったく違うとは言い切れないとは思います。
しかしそれは、「人に与えることは、自分をすり減らすことである」という視点からの言葉でしょう。先ほどの「自分が幸せでなければ~」という言葉を使う人は、与えることが負担であると感じているのではないでしょうか。
「与えることは、与えられることである」という大変シンプルな法則を、忘れてしまっているように思われます。
前述したマザーの話を見ても、自分が満ち足りていなければ、他人に何かを与えられない……ということはないとわかります。
人間は欲深く、常にどこかに不満を持つ生き物です。そのため、「自分が幸せでなければ、人に何かを与えることはできない」という意識でいれば、「まだ自分は足りないから、人に何かを与える段階ではない」という気持ちを、永遠に抱え続けて過ごすことになるでしょう。
先に与える姿勢を持つことで、自分が満たされることもある
私自身、昔からボランティアが趣味のようなところがあります。確かにある程度の金銭的・時間的余裕がなければ、できることではありません。
それでも、自分が満たされているからやってやる、というのではなく、自分自身のエネルギーを少しでも人々や社会に役立てたいという気持ちから、時間を作って取り組んでいるのです。
そしてボランティアを行うことにより、良いことをしたなあという何とも言えない満ち足りた気持ちが訪れ、結局は自分自身が与えられます。
何かを得ても、まだまだ足りない、もっと抱え込みたいと感じるのが人間です。
しかし、そのような状況であっても、人のために何かを施したときに感謝の言葉や笑顔をもらったとき、心がふわっとして満ち足りる……ということがあるのです。
ですから、自分が満たされたらやっと人に与える、という順番にこだわらずに、ときにはその逆パターンがあると考えて動いてみることをお勧めします。
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