鮮やかに騙される快感「鑑定師と顔のない依頼人」~奇妙な鑑定依頼の真の目的は?~

一流の鑑定眼を持つオークション鑑定士

かびに覆われた板きれが数世紀前の名画だと瞬時に気付き、僅かな筆の跡から贋作を見抜く、ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)。その本職はオークションを仕切る美術鑑定士だ。神の眼のごとき鑑定眼と豊かな知識、そして天性の鋭い勘で、世界中の一流オークションからのオファーが絶えない男だ。
だが、芸術への熱烈な愛に比べて、ヴァージルは“人間”が苦手だった。早くに親を亡くし、結婚もせず、友人もいない。携帯電話は持たないし、食事も一人。度を超す綺麗好きでも、人を遠ざけていた。高級ホテルのような住居はホコリ一つなく、行きつけのレストランには名前入りの専用食器が置かれ、トレードマークの手袋は食事中ですら外さない。
そんな彼の最上の楽しみは、自宅の隠し部屋の壁一面に飾った、女性の肖像画を愛でること。自分が仕切るオークションで、長年のパートナーであるビリー(ドナルド・サザーランド)に、価値が上がる前の名画を格安で落札させているのだ。

奇妙な鑑定依頼──突然のキャンセルと、嘘の言い訳

ヴァージルのもとに、クレア・イベットソン(シルヴィア・ホークス)と名乗る女から、鑑定依頼の電話がかかってくる。1年前に亡くなった両親の屋敷に遺された家具や絵画を見てほしいというのだ。ヴァージルは屋敷を訪ねるが、約束の時間になっても、雨のなか門は閉ざされたままで、人の気配もない。事務所にかかってきたクレアの電話に「許し難い無礼な行為だ!」と怒るヴァージル。彼女の説明は、「交通事故で入院した」という信じ難いものだった。
謝罪を受け入れて再訪すると、管理人が現れる。今度は夜中に熱が出たという子どものような言い訳だ。兄弟も親戚もいない天涯孤独、独身で恋人もいないはずだと管理人は説明する。広大な屋敷はかつての壮麗さを残しながらも、今では廃墟同然で、室内は荒れ放題。地下に降りたヴァージルは、床に転がった何かの部品に心を引かれ、密かに持ち帰る。
修理店を営むロバート(ジム・スタージェス)に、部品を調べてくれるよう頼むヴァージル。以前フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの“妻の髪を乾かしたドライヤー”を部品から再現してくれた、恐ろしく手先の器用な男だ。

依頼人の告白──姿を現すことが出来ない理由

契約書類に署名が必要になっても、クレアは現れない。どうやら屋敷のどこかに隠れているらしいと気付いたヴァージルは、管理人に金を握らせて、クレアのことを聞きだす。年は27歳、11年間の勤務中に一度も会ったことがないと言う管理人は、「とても奇妙な病気だからです」と秘密を漏らす。同情と好奇心にかられ、さらに部品が欲しいあまり、クレアに歩み寄ろうとするヴァージル。だが、電話で「もう手を引いてください」と冷たく拒絶されてしまう。
一方、ロバートが磨き上げた部品からは「ヴァーカンソン」という刻印が現れる。それは、18世紀の機械人形の製作者の名前で、本物なら莫大な価値がある。

やはりクレアは、屋敷の隠し部屋に暮らしていた。彼女はヴァージルとの扉ごしの対面を決意、震える声で部屋を出られない理由を告白する。
だが、それは新たな謎への入口に過ぎなかった。
機械人形は本物なのか? 鑑定依頼の本当の目的は? そしてクレアの過去に隠された秘密とは──?

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タイトル:鑑定士と顔のない依頼人

監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジェフリー・ラッシュ (『英国王のスピーチ』 『シャイン』)
ジム・スタージェス (『ワン・デイ 23年のラブストーリー』『クラウド アトラス』)、
シルヴィア・ホークス、
ドナルド・サザーランド (『ハンガー・ゲーム』 『プライドと偏見』)

公開表記:12月13日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他全国順次公開
(c)2012 Paco Cinematografica srl

配給:ギャガ
公式サイト: kanteishi.gaga.ne.jp
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