松雪泰子主演映画「余命」女性の命と愛。その琴線に触れる

2つの命を抱えた滴に迫られた究極の二択。彼女が下す決断とは?

気づけば、自分の胸に手を当てていた。“乳がん”という病気について心配になったというのはもちろんである。でも、もっと別の意味もあったような気がした。主人公の苦悩・葛藤を目の当たりにして“私の心”に何かを問うていたのかもしれない。 38歳の外科医・滴。カメラマンである夫・良介と結婚して10年目にようやく果たした妊娠。喜びもつかの間、彼女に舞い降りたのは天使だけではなかった。若い頃に患った乳がんが再発していたのだ。医師である滴にとって、この再発がいかに重なものかはいとも簡単に理解できる。しかし、治療をすればお腹の子どもをあきらめなければいけない。出産を選べば、がんの進行は早まり、自分の寿命は急速に縮んでいくだろう。2つの命を抱えた滴に迫られた究極の二択。彼女が下す決断とは?そして自分に残された時間のなかで滴は何を感じ、どう生きていくのか―。“出産”という女性だけに与えられた聖なる権利は、同時に2つの命を委ねられるという責任重大な任務でもある。「私だけだったら……」。女性なら、この映画を観てそう考えない人はいないはず。「やはり自分の命が優先」という人も、「やっと授かった命を諦めるなんてできない」という人もいるだろう。悩んだあげくにどちらかを選ぶ人がいれば、当然のことのように即決で判断を下すことができる人もいるかもしれない。そのどれもが正解。年連によっても違うだろうし、環境によっても違う。決めるのはやはり自分でしかないのだ。もし、滴が選んだ道に違和感を覚えたとしても、それは医師であり、38歳である1人の女性の選択。拒絶せず受け入れて観ることで、普段何気なく付き合っている自分への命や人への愛について考える機会となるのではないだろうか。経済的に不安定で見た目には頼りない良介への、愛しているけれどももどかしい滴の気持ちもリアルに描かれている。劇中、滴が語る「あなた、私のこと大好きだから…」という言葉が印象的。根っこの部分でしっかりと繋がれている本物の愛がそこにある気がした。ディープなテーマだが、観終わった後、流れ出る涙は“浄化”の印。前向きに生きる勇気が湧いてくる。

 

    

◆映画紹介 余命 監督/生野慈朗 原作/谷村志穂「余命」(新潮文庫刊) 出演/松雪泰子、椎名桔平、林遺都ほか 公開/2009年2月7日全国ロードショー 公式サイトhttp://www.yomei-love.com TRINITY vol.30(2月下旬発売予定)では、表紙に松雪泰子さんが登場します。ご自身が大好きだという沖縄・久高島で、愛についてスピリチュアルについて語ってくれました。どうぞお楽しみに!

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