その後、何回かこの女性クライアントとはお会いしている。
息子さんは５年生でなんとか、有名塾に受かり、母親は有頂天になった。しかし、塾での成績は奮わず、母親はいつもイライラ感を募らせていた。時折、「あなたはゴキブリ」発言も出ていたようだ。ただ、憧れの講師の先生とそこそこ話せる機会も得て女性は急に華やいだ雰囲気にはなった。
それに反して、息子さんはやんちゃさが消えて少し反抗期に入ってきたようだった。私は時折、息子さんは晩成ですので、と繰り返した。彼女は笑いながら、わかっています、と返せるようにはなっていた。話題は塾の模試の結果に対する相談や受験校の設定などになり、「落ち着かない」話題は出なくなった。
息子さんは一日に八時間以上勉強するように強要されており、彼は母親に反抗しながらも、それでも一日に五時間ほどはきちんと机に向かって座っていられるようになっていたので。そして、彼は受験本番を迎えた。

彼の受験が終わり、桜の花が散った頃、一通のメールが彼女から届いた。

「息子は残念ながら第一志望の○○大学附属中学は落ちてしまいました。本当に残念なのですが、大学附属は全て落ちてしまいました。結局、あなたが一押しですよ、と言っていた中高一貫の○○男子校に決まりました。本人は楽しそうに学校に通っています。
私はまだとても残念で、心の中に穴が開いたようではあります。だから、大学受験では絶対に頑張ってもらおうと思います。『彼は晩成』なんですから、大丈夫ですよね、大学は。
私は塾の先生に失恋してしまいました。告白したのですけれど、「無理」って言われてしまいました。今は心がまだ痛みますが、次の恋を目指して頑張ります。あ、離婚はしていないです。息子がそろそろ反抗期本番みたいですので、やはり主人がいたほうが私も楽ですものね。新しい恋を見つけたらまた伺いますね」

きっと息子さんは大器晩成タイプの男の子が溢れている男子校で、楽しく友情を育みながら成長していくことだろう。少しくらいまた、やんちゃに戻っても良いと思う。男子校の醍醐味を充分に味わい、高校で少しずつ現実を見て、それから進路を決めても彼にとっては全く遅いということは無い。大らかで陽気で頼りがいのある大人として成長していけるだろう。
その頃には母親の発言も、彼の心を痛めるものにはならないことを祈る。
きっと成長した彼なら、はいはい、と母親の発言を上手く受け流していけることだろう。
親の存在は確かに子どもに強い影響を与え、様々な精神的成長を施す要因となる。それがどんな形であったとしても。
（おわり）

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