多くの人々を魅了する100年以上解明されない謎の書物　ヴォイニッチ手稿

【1912年に発見された謎の本】

「ヴォイニッチ手稿」というものをご存じでしょうか？　「15世紀前後」に書かれたとされているこの古文書は、「230ページ」ほどのさほど長いものではないのですが、そこには多くの挿絵と文字が書かれています。しかし、文字は既存の言語に該当するものがなく、挿絵に描かれた植物も、「ほとんどが実在していない」というとても奇妙な本なのです。

1912年にアメリカ人の古書収集家である「ウィルフリッド・ヴォイニッチ」という人物が発見したことで「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれていますが、正式名称は発見から100年以上たった現在でもまだわかっていません。

【世界でもっともミステリアスな本に学者が挑む】

ここに書かれている文字は、暗号ではないかといわれているものの、未だに解読は成功していません。そのために「世界でもっともミステリアスな中世の写本」などと呼ばれたりしているのですが、その内容は「必ずしもデタラメではない」ということがわかっています。イギリスのマンチェスター大学の理論物理学者「マルセロ・モンテムッロ博士」が、コンピューターを用いた統計学的手法を用いて、ヴォイニッチ手稿を分析したところ、「書かれた文字には、なんらかの意味がある」ということがあきらかになっています。とはいっても、通常の言語と同じような規則が存在していることがわかっただけであり、意味自体は未だに解明されていません。

そんな謎にさらなる光明を与えるのではないかという論文が、2014年に発表されています。アメリカのデラウェア州立大学で名誉教授を務める「アーサー・タッカー氏」と、アメリカ国防総省で情報技術者をつとめたこともある「レックスフォード・タルバート氏」の共同執筆によるこの論文によると、ヴォイニッチ手稿に描かれた植物のいくつかが、「古代アステカに存在していたもの」だということがわかったのです。アステカ文明の写本を元に、長らく謎とされていた植物の素性がわかったということから、同じく謎とされていた文字も、すでに失われてしまった「古典ナワトル語」なのではないかと推測されています。

【謎を解く鍵はスピリチュアル能力？】

大学教授や情報技術者といった人々が、本気で論文を書くほど研究されており、さらに発見から100年以上たっている暗号ならば、ある程度の規則が判明すれば解読されることが多いのですが、ヴォイニッチ手稿は科学的な解析が進んだ現代でも、解読できていません。そのことから、「解読するためにはスピリチュアルな能力が必要」という主張も存在しています。

2011年に「ヴィエッコ・ラトヴァラ」という人物がヴォイニッチ手稿を解読したと発表して話題となりました。彼によると、書かれた文字は「音の波と声の音節」をあらわしており、内容は「薬を科学的に解説したもの」なのだそうです。肝心の解読方法は「予言するためのチャンネル言語と同じコードを使って行った」というもの。彼は「神の予言者」を名乗っており、簡単にいうと「チャネリング的な情報を元に解読した」というわけです。

さすがにチャネリングでの解読というのは、強引すぎる感じがありますが、「ヴォイニッチ手稿がスピリチュアルなものである」という説は古くから存在しています。挿絵で一番多いのは植物や花などですが、他にも「星座や人体図、魔術的な図形」などが描かれており、星座には一部実在のものもあることから、「錬金術の秘儀を示したもの」であるという説や、「異世界の書物」という説なども存在しています。

現実的な解釈としては、「錬金術の奥義書として中世の王族に売りつけるために作られた偽物」だという説もあります。要するに、それっぽい絵と、それらしい文字を適当にでっち上げているために、いかにも内容があるように見えるけれども、実際には内容がないために「解読不能」というわけです。しかしながら、きちんとした科学的分析である程度、文章には意味がある可能性が提示されていることを考えると、この説も確実とはいえません。