錬金術から産み出された禁断のお酒 アブサン

主成分であるニガヨモギは、古来から不吉でありながら、神秘的なハーブと考えられてきました。『旧約聖書』で、楽園を追放された蛇が這った後に生えた植物ともいわれていますし、北欧では「死の象徴」とされていました。

【多くの芸術家にインスピレーションを与えたお酒】

天才画家である「ゴッホ」を初めとして、「多くの芸術家に愛され、彼らにインスピレーションをもたらした」とされるお酒があります。このお酒を愛したとして知られているのは、ゴッホの他に、同じく画家である「ロートレック」や「ピカソ」「モネ」「ドガ」など、現在にまで名前を残している人物ばかり。また、『老人と海』で有名な作家の「ヘミングウェイ」も飲んでいたといわれています。

これらの天才的な芸術家を魅了したお酒の名前は「アブサン」。どうしてこのような名前になったのかは諸説ありますが、主原料である「ニガヨモギ」の古名が「アブサン草」だったからというものや、元々は「absince」であり「聖女のため息」「妖精のささやき」を意味していたというものもあります。また、このお酒は「禁断のお酒」と呼ばれ、「一時期その製造が禁止されていた」こともあり、英語の「absence」すなわち「不在」に由来しており、「名前自体が禁止される運命を予言していた」という、ちょっとできすぎたものまであります。

 

【禁断のお酒とされたアブサン】

なぜ、アブサンが「禁断のお酒」とされたのでしょうか?

元々、アブサンは「ニガヨモギというハーブを主原料とした薬だった」といわれています。それを医師が蒸留の技術を用いて改良し、その製法を商品化したものが、お酒としての「アブサン」になりました。主成分であるニガヨモギは、古来から不吉でありながら、神秘的なハーブと考えられてきました。『旧約聖書』で、楽園を追放された蛇が這った後に生えた植物ともいわれていますし、北欧では「死の象徴」とされていました。しかしながら、その名称自体は「聖なる草」を意味しており、「生と死の二面性を象徴していた」ともいえるでしょう。このことから、「不老不死を目指した錬金術師たちに研究された結果」、薬として用いられるようになったわけです。

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【幻覚作用が含まれているアブサン】

アブサンには「ツヨン」という成分が含まれています。この成分には「幻覚及び向精神作用がある」とされました。芸術家たちは、この「幻覚作用によってインスピレーションを得ていた」とされ、アブサン中毒が危険視された結果、「20世紀初頭になってあちこちで製造が禁止」されたのです。

しかしながら、より詳しい研究が進むにつれて、ツヨンが持つ幻覚作用はさほど強いものではなく、多くの問題を引き起こした幻覚は、「アルコール中毒によるものだった可能性が高い」ということがわかってきました。アブサンは比較的安価で供給出来たために、過剰に摂取する人が多く、それによってアルコール中毒となり、その結果幻覚などの症状を呈したわけです。

こうしたことから、1981年に「WHO(世界保健機関)」がツヨンの濃度を定め、それ以下のものだったら製造をしても構わないということになりました。ちなみに、ツヨンの濃度が定められていることからもわかるように、大量摂取した場合、強い幻覚作用はなくとも、ある程度の「リラックス効果や、脳の認知機能を高める効果」などは存在しているとされ、「大量に服用した場合は有毒なケースもある」ことは確かです。

 

【不思議な性質を持つアブサン】

アブサンは「水を加えると、液体が白く変わる」こと、また独特な味と香りをもっており、アルコールにあわせることで、ある程度の鎮静効果があることなどから、飲んだ人を「瞑想状態に入りやすくするお酒」といえるでしょう。その飲み方も、直接飲むと味が強烈すぎることから、ちょっと「変わった方法」で飲むのも特徴といえます。

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【アブサンの変わった飲み方】

有名な方法としては、角砂糖にアブサンを染みこませたものに火をつけて、ある程度アルコールが燃えて、砂糖がカラメル状になったものを、アブサンの中に入れてからかき混ぜて飲むというものがあります。これによって、砂糖の甘みと香ばしさがプラスされ、飲みやすくなるのです。

ただし、この方法だと「砂糖の味が強くなりすぎて、アブサンの持つ独特の風味が損なわれる」という意見もあります。その場合は、グラスにある程度のアブサンを注いでから、「アブサンスプーン」と呼ばれる、いくつも穴が空いたスプーンをグラスの上に設置し、そこに角砂糖を載せ、水を1滴ずつ垂らしていくという、「アブサンドリップ」という手法を使います。この場合、角砂糖の味も強くなりすぎず、なにより微量に水を加えていくことで、アブサンが持つ「水を入れることで、色が変わっていく」という特徴も堪能することができます。水を徐々に入れることで、より「各種ハーブの香りが引き立つ」ということもあり、手間はかかるものの、本格的なアブサン愛好家はこの手法を使う人が多いようです。