かつて日本人だった人たちが語るそれぞれの人生。映画「台湾アイデンティティー」

映画「台湾アイデンティティー」の世界

“日本語世代”と呼ばれる人たちが台湾には存在する。台湾は1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)までの半世紀、日本の統治下にあった。彼らは単に日本語を話すだけではなく、その精神性や行動パターンに至るまで全身に「日本」が染みついている。

“歴史の生き証人”とも言える日本語世代の人たちのインタビューを通して台湾と日本の近現代史をクローズアップさせた『台湾人生』(2009年)から4年。戦後70年近く長い年月が過ぎ、日本語世代と呼ばれる人々は少なくなってきている。そんな彼らの今の姿に迫り、日台の歴史を紐解くドキュメンタリー映画、それが『台湾アイデンティティー』だ。

第二次世界大戦、二二八事件、白色テロという歴史のうねりによって人生を歩み直さなくてはならなかった日本語世代の6人の人物が、それぞれの実体験を我々“日本人”に向けて“日本語”で語ってゆく姿には心を打たれる。

普段は北京語や台湾語で生活している彼らが、60年以上前に教わった日本語をこれだけ大切に思ってくれている事を私はとても嬉しく思ったし、日本に対する彼らの印象がとても良いものであったことには正直驚いてしまった。

彼らが求めた居場所とは……戦後70年の道のり
台湾、ジャカルタ、そして横浜へ

日本が戦争に負けたことで「日本人になれなかった」と言う人、台湾に帰れなかった人。旧ソ連に抑留されながらも、そのおかげで二二八事件に巻き込まれずに済んだと笑う人。白色テロによって父親を奪われた人。青春の8年間を監獄で過ごさねばならなかった人。「本当の民主主義とは何か」を子供たちに伝え続けた人。彼らが口にする過去の体験は、修正できない歴史を背負っているが故に、重く切実だ。

本作は台湾、ジャカルタ、そして横浜に身を置く日本語世代の人たちへのインタビューで構成されている。彼らは台湾人名と日本人名を持ち、それぞれの“アイデンティティー”を持ち合わせたくましく生きている。

 

日本が彼らに対して行ったことはどんなことをしても償うことはできないだろう。しかし、本作でインタビューを受けている人々はとてもまっすぐで純粋だ。きっと彼らの暖かな人間性こそが日本を愛する源となっているのだろう。

東日本大震災の際に台湾から200億円を超える義援金が寄せられたことや、WBCで台湾代表チームや観客が日本へ向けて素晴らしいメッセージを送ってくれたことは記憶に新しい。一般の人々からの台湾への関心が高まっている今だからこそ、我々は台湾ともっと向き合うべきなのだ。自らの意志を自由に語ることが許されなかった時代を歩んできた人たちの眼差しはとても熱く、たくましい。世代を超え語り継がれてゆくべき歴史を語る彼らの姿に多くの人が感銘を受けるはずだ。

『台湾アイデンティティー』
7月6日(土)より ポレポレ東中野ほか全国ロードショー
www.u-picc.com/taiwanidentity 
配給:太秦
text:滝沢塁

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