少彦名神に招かれて近づく本殿。
共に国造りをされた大己貴神も祀られていらっしゃるからか、御神氣は大山に鎮座する大神山神社奥宮にも似ています。
(けれど、やっぱり少彦名神の御神氣が強いかな……。)
そう思うと、少彦名神が笑う気配がありました。
(柔らかい笑顔だ。)
大己貴神の笑顔が真昼の太陽なら、少彦名神の笑顔は朝日が昇って少し経った後か夕刻前の日差しの柔らかくなった太陽のよう。
優しく目覚め後の身体を温めてくれて、疲れた身体を労ってくれるような優しい光と温かさ。
それを独り占め出来るようなこの本殿傍は、神社の特等席かもしれません。
中海に目をやると、出雲風土記に砥神嶋と記された十神山(とかみやま)が見えます。
(今は陸続きだけど、十神山も粟嶋神社の鎮座する明神山も昔は島だったんだよなぁ。)
そんな神代の風景を思い描きながら、少彦名神はここから実った粟に乗って常世の世界へと行ってしまわれたという神話を思い出しました。
『……そんなに小さくはないけどね。』
ちょっと困ったような少彦名神の声に、
「そうですよね~。きっと、少彦名神が小さかったんじゃなくて、大己貴神をはじめ、他の神々が大きかったんでしょう。」
と、フォローのような独り言をつぶやき、なんでそんなことを言うのかと自分で可笑しくなって笑ってしまいました。
『そうだね、他の神々は大きく立派な体格だったからね。けれど、私は自分の小さな身体を恨めしいとは思ったことは無いよ。私には智慧がある。小さくても、智慧さえあれば強くなれるし、国も造れる。私は私の全てを生かし、大己貴神と共に全国へと行ったんだ。』
私の呟きにも丁寧に答えてくださり、遥か昔を懐かしむように語る少彦名神。
その話を暖かな日差しの中で聴くのは、なぜかとても懐かしい記憶を呼び覚まされるような気がして心地好かったです。
『……ここは常世の世界へと繋がる場所。君はまだそこへは行ったことはなかったよね。そろそろ行ってみてはどうだろう?』
その少彦名神の言葉に、夢心地から無理やり起こされたような気分になり、顔をしかめる私。
「……あそこ、ですか~? 行かないとダメ? 出来れば、行きたくない……かな~……?」
上目遣いで本殿を見上げてみましたが、にっこりと行った方がいいと言われ、しょんぼりと頭を垂れる私。
「苦手なんだよなぁ、あそこ……。はぁ~……。」
大きなため息をつき、本殿にぺこりと頭を下げて、重い足取りで後にしたのでした。
続く。
《沙久良祐帆さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/sakurayuuho/?c=88928