怒りは必要な感情
「怒り」と聞くと「表出してはいけないもの」「あってはならない感情」と捉えがちですが、実はそうではありません。
怒りは正常な感情反応で、私達に必要不可欠なものです。
その理由は大きく3つあります。
1つ目。
怒りはあなたを守る武器になります。
あなたが外部から脅威や攻撃を加えられそうになったり、実際に加えられたりした時に、怒りはあなたを守り、立ち向かう力を与えてくれます。
怒りがなければ、あなたは相手にやられたい放題になってしまうでしょう。
2つ目。
怒りはあなたの権利を守る境界線をクリアにしてくれます。
お金を借りて返さない知人、限度を超えて残業を押し付ける上司に対して、怒りは「NO」を言う勇気を与えてくれます。
怒りは自分が譲歩できる境界線をクリアにし、理不尽な要求に抵抗する力になります。
3つ目。
ここが今日解説する部分です。
怒りは自分の欲しいものを主張する力を与えてくれます。
不平等な扱いを受けた時や、誰かと競って何かを手に入れなければいけない時には、相手に怒りを効果的に出す必要があるのです。
相手に怒りをぶつけてもいいの?
これに関して、ある受講者さんから「誰かと競って何かを手にいれなければならない時」とは、具体的にどんなケースが考えられますか?という質問を受けました。
その時ちょうど思い浮かんだのが、先日亡くなった米与党・共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員です。
政治の世界では、「欲しい物を手に入れるために怒りを使う」のはよく見られます。
そしてマケイン議員は、その使い方がとても上手でした。
怒りを使ってトランプ大統領肝入りの法案を却下!
マケイン議員はトランプ大統領への怒りを隠さないタイプで、「強面」と「穏健」を上手に使い分けた熟練した政治家でした。
例えば、トランプ大統領が主導した医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃法案の採決でも、闘病中にも関わらず姿を見せて議会で演説し、民主党議員に混ざって強い態度でノーを突きつけ、撤廃法案は僅差で否決されたのです。
この採決で、マケイン氏の影響は計り知れないものがありました。
敵からも味方からも愛されたマケイン議員の秘密
ベトナム戦争で捕虜となり拷問されるという修羅場をくぐってきたマケイン議員は、相手が大統領であっても、自分の主義主張を時に激しい怒りをもって主張してきました。
しかし、共和党内からだけでなく、敵である民主党を始め多くの人から尊敬し愛されました。
その理由は、このエピソードに凝縮されています。
2008年の大統領選で、共和党候補として民主党のオバマ前大統領と激しく争った際、集会で「オバマは信用できない。彼はアラブ人だ」と語る支持者に対し、「それは違う。彼は全うな市民だ。相手に敬意を表すのが米国政治のやり方だ」といさめたのです。
お気づきでしょうか。
マケイン議員は、「その人のパーソナリティ」を攻撃するのではなく、「正さなければいけない事実」「自分の考える正義とは相容れない事実」に対して、怒りをもって対処していたのです。
これが、マケイン議員の人望にもつながりました。
かつて争ったオバマ氏は、告別式で「政治家、愛国者ということを身を以て示した米国一の男だ」とマケイン氏を賞賛しました。
トランプ氏と仲間のはずの共和党ブッシュ氏にいたっては「ジョンは権力の乱用を何より嫌い、偏狭で威張り散らす暴君(トランプ大統領の事を暗喩しています)に我慢がならなかった」と語っています。
マケイン議員と逆に「相手のパーソナリティ」をツイッターでガンガン攻撃しているのが、トランプ大統領です。
おかげで怒りの論点がかなりグチャグチャになっていて、側近の苦労が忍ばれます。
ちなみに、民主共和の党派を超えた歴代大統領が出席したマケイン議員の告別式に、トランプ大統領は出席しませんでした。
まとめ:
今回は少しスケールが大きな例えになりましたが、怒りを欲しいものを手にするために正しく使うコツは「相手のパーソナリティを攻撃せず、事実に対して怒る」という事です。
理不尽な要求に、ただ黙って膝を屈する必要はないのです。
参考資料
『アンガーコントロールトレーニング上・中』星和書店 エマ・ウィリアムズ レベッカ・バーロウ
朝日新聞 2018年8月27日、9月3日朝刊
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