『サルでもわかるハリィー先生とトリ子さんのアヴァンギャルドな東洋医学講座』 第10話~ミトコンドリアとヒトの深い絆について~

まさに糸が連なってウネウネと動くネットワーク構造こそがミトコンドリアの真の姿だったんです。

「あっ、ネットワーク構造で動いているのね!」

「トリ子さん、ナイス、ビンゴ! まさに糸が連なってウネウネと動くネットワーク構造こそがミトコンドリアの真の姿だったんです。まるでミクロの細胞世界の巨大なミミズか、はたまたジャングルジムって感じかな(笑)でね、だいたい平均でヒトの細胞のなかには300個を越えるミトコンドリアが糸状にネットワーク構造を築いて細胞核の周囲に浮游しているから、概算でヒトの身体には計、1京8000兆個のミトコンドリアが存在することになるんだって」

「えっ、1京8000兆個! ヒトの細胞の総数が60兆個だから、それよりもはるかに多いってことね。ヒトの身体のなか、メッチャ、ミトコンドリアだらけじゃん!」

「そう、まさにヒトの身体はミトコンドリアに完全に占拠されているわけ。でも、このミトコンドリアがいてくれるからこそヒトは普通に酸素濃度の上がった地球上で生きていられるんだよ」

「うん、それはなんとなくわかるわ。ミトコンドリアは酸素を使ってATPという分子を生み出していて、このATPという分子が細胞活動のエネルギーになってるんだもんね」

「そうだね。ATPはアデノシン三燐酸という分子でだいたい一日に体重と同じくらいのATPがヒトの身体で作られているんだけど、その95%をミトコンドリアが作り出している。このATPという分子はこれまでは細胞の生理活動のエネルギー通貨と捉えられてきたんだけど、最近になってATPには情報伝達のホルモン分子としての役目があることがわかってきたんだ」

「へぇ~、ATPはホルモンの役目もあるのね。なんだかとっても重要な役目を担っているのがミトコンドリア。そんな気がしてきたわ」

「たしかにその通りだね。あのね、ミトコンドリアの内部には鉄元素を中心に据えたチトクロームという酵素が充満していて、ミトコンドリアの内部は真っ赤な色をしているんだって。このミトコンドリア内部にあるチトクロームという酵素を使ってミトコンドリアは細胞内に入ってきた毒素を解毒するデトックス装置としても機能しているんだよ。あとはATP産生の際に発生する熱は、体熱として体温の保持に活用されている。例えば北極に近いアラスカのエスキモーの人々や北方ロシアの人々のミトコンドリアは体熱産生を重視する方向にすでに進化しているんだ。ミトコンドリアは独自のミトコンドリアDNAを持っているから、こんな風に地球上のそれぞれの地域に住む人種に応じた適応進化までしているんだよ」

「うわっ、それ、初耳だわ! ミトコンドリアはホスト(宿主)の住環境に合わせて独自に進化しているのね! まったく、ミトコンドリア、やるじゃない!」

「そうだね。ミトコンドリアはエネルギー産生、ホルモン産生、解毒浄化、体熱産生などの非常に重要な生理機構をメインの仕事として担い、細胞核に仕舞われたヒト細胞のDNAを守る砦(とりで)となって、細胞核周囲にネットワーク構造を築いている。そのミトコンドリア・ネットワークは大量のATPを生みだして、細胞内にくまなくこのATPを放出しつつ、ミトコンドリア内の分子をネットワーク内で融通する。もしもミトコンドリアDNAが変異した場合は、そのミトコンドリアDNAをもつミトコンドリアを粒の単体にしてそのミトコンドリアだけをネットワークから切り離して、この不良品のミトコンドリアをミトファジーという機構を使ってシュレッダーのように裁断し分解してしまう」

「なにそれ、スゴッ!」

「トリ子さん、驚くのはまだ早い(笑)さらにミトコンドリアDNAの変異を含めてミトコンドリア・ネットワーク全体が様々な環境ストレスで損傷してしまうと、ミトコンドリアはミトコンドリア・ネットワーク全体だけでなく、自分が宿っている細胞もろともに消去してかかる。これがミトコンドリアが主体となる細胞のプログラム死、細胞アポトーシスの全貌なんだよ」

「ふ~ん、つまりミトコンドリアは細胞アポトーシスのハンドル、手綱(たづな)を握りしめることで、ホストの細胞の生死まで支配しているということね。なんだか映画「もののけ姫」のあの森に棲むシシ神様のイメージと重なるわ」

「あのシシ神様が夜、怪獣のように巨大化した時に、身体中にピカピカと光るネットワーク構造があったじゃん。アレってほんとミトコンドリアだよね。人間もまた身体中にピカピカと光るミトコンドリア・ネットワークを巻き付けたシシ神様と同じ生命体なんだよ」

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「ワオッ! ハリィー先生のミトコンドリア講義のお蔭で、だいぶ、わたしのミトコンドリア・イメージが修正されてきたわ。ありがとう、先生。で、このヒトに宿るシシ神様もとい、ミトコンドリアと東洋医学が、どんな風に絡んでくるの?」

「つまり、超ザックリ言ってしまうと、東洋医学は分子レベルにおいてミトコンドリアを活性化する分子を誘発することで、ミトコンドリアを元気100倍にする、と、こういうことなんだね」

「鍼灸指圧でミトコンドリアは元気100倍?! 元気100倍! ミトコ~ンマ~ン♪って感じかしら?」

「だはは、アンパンマンならぬミトコンマンね。糸偏に半分と書いて絆と読みます~♪、ってCMが子供の頃にテレビで流れていたのを今、思いだしたよ(笑)ミトコンドリアの糸がヒトの細胞、身体には半分からまっている。糸偏に半分と書いてヒトと読めそうだね。そうヒトとミトコンドリアは深い深い絆で結ばれている。その絆をさらに深める医療こそが東洋医学、鍼灸指圧なんだね。ミトコンドリアは一酸化窒素とグレリンというホルモンで分裂が始まり生息数を増殖して、ミトコンドリア・ネットワークをパワーアップする。この一酸化窒素とグレリンというホルモンは鍼灸指圧で分泌が高まるホルモンなんだよ」

「ただのヒトを「Xメン」ならぬ、ミトコンマンに変身させる医療が鍼灸指圧なのね?」

「まさに、その通り! 生死を左右するミトコンドリアを味方につけることこそが最強の養生法なんだ。ついに人類は最強の養生法を発見した。その最強の養生法とは東洋医学だったんだ」

「ミトコンドリアを語らせたら、止まらないハリィー節、このまま終わりそうもないわね」

「せっかくミトコンドリアにご登場頂いたから、次回もミトコンドリアがらみでいきましょうかね? ヒートショックプロテインとミトコンドリアも関連するし、ミトコンドリアは不滅だという証拠もあがっているし、ミトコンドリアの起源をさかのぼると20億年前のバクテリアにまでさかのぼるというし、掘れば掘るほどミトコンドリアの周囲にはネタの宝が眠っている」

「はい、では、次回もミトコ~ンマ~ン♪ で、元気100倍、宜しく!」

 

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