東京オリンピックも染める「襲(かさね)の色目」 令和初の夏コーデ&メイクに取り入れてみたい

色

●平安時代に生まれた美しい色の世界。

衣の色を呼ぶとき、染色に使う素材の名前がそのまま用いられていた時代がありました。

宮廷文化華やぐ平安時代の後期になると、四季折々の美しい名称で色の組み合わせを呼ぶ、「襲の色目」が登場してきます。

染色の素材そのものの名前もありのままの美しい呼び名ではありますが、着る人の個性や心の移ろいを表すまでには至らなかったでしょう。

「襲の色目」は、それを選び装う人の想いや魅力、教養や心使いを表現しました。

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(藍の葉。藍の色はこの葉から生まれる。)

「襲の色目」とは、宮廷の女官たちの袿(うちぎ)と呼ばれる着物の色の組み合わせを表すものです。
色の取り合わせの美しさを季節の情緒あふれる言葉で表現することで、ときにはあわれ、ときにはおかし、そしてより深く繊細な意味合いをそこはかとなく感じさせます。
女官にとって襲の色目を知り使いこなす技量は重要でした。

十二単衣の衿元や袖に色の重なりのある着こなしを、平安時代の絵に見ることがありますがその彩りが「襲の色目」です。
当時は今より寒さが厳しく、しかも布地は薄かったため、袿を幾重にも着ていたようです。

最初の「襲の色目」は、薄い布を二枚重ねた袷仕立ての表裏の色の組み合わせでした。
そこには二枚の重なりの色目も美しい風情として表現されました。

その後、袖や衿元の重なりの色目、色糸の織りによって生まれる色彩も、「襲の色目」と呼ぶようになったそうです。
時代によって、諸説によって様々な定義はありますが、今回はその3つをすべて含めて「襲の色目」ととらえています。

 

●襲の色目の季節感。

季節の移ろいを少し先行するのが、「襲の色目」の色の組み合わせで、折々に変わる風情が楽しましれていました。

そんな昔のしきたりに習って春夏秋冬それぞれの「襲の色目」をご紹介します。
実際の色を表現できていないかも知れませんが、イメージとして感じてみてください。

紅梅匂(こうばいのにおい)紅梅と淡紅梅
春といっても新春の頃の彩りです。匂とは濃淡のことを表現する言葉なのだそうです。微妙に違う色の組み合わせは今の装いとしては新鮮です。

薄桜萌黄(うすさくらもえぎ) 淡青と二藍
萌える若葉とその奥に見える桜を表現したようです。桜色が使われておらず、奥深い山にかすかに見える桜の花びらの透ける尊さが想像されます。それとも当時の山桜は、このような色だったのかも知れません。

破菖蒲(はしょうぶ) 萌黄と紅梅
菖蒲の色目はいろいろあり、菖蒲、若菖蒲、根菖蒲、菖蒲重などそれぞれに個性的です。「破」は葉のことで、この言葉を付けて菖蒲とは違う色目を表現しています。

百合(ゆり) 赤と朽葉
白百合ではなく野山に咲く姫百合の色なのだそうです。素朴な可憐さがいきいきと感じられます。この色目は平安より後に使われたようです。

小栗色(こぐりいろ)秘色と淡青
栗の色のイメージとは違いますが、未熟な栗を表現しているそうです。そう思うと、栗のいがや実のまだ若い時期の青々しさが思い浮かびます。

移菊(うつろいぎく) 紫と黄
白い菊が霜にあたって変色していく様子を表現した色目らしいです。とらえ方によっては劣化に過ぎないことも、美しい色目で表現すると、そこには年を重ね、まわりが変化することにも愛情を向ける気持ちが感じられます。

枯野(かれの)黄と淡青
枯色が本来の枯れたイメージの色目なのに対して、枯野は明るい色目になっています。枯というひとつの事象に対して色目表現はひとつではないところが面白いです。

雪の下(ゆきのした)白と紅梅
白い雪の下の紅梅を表現しているそうです。春待ち、ふくらむ期待、ほのかな想い……。様々な連想が浮かんできます。

 

●この夏おすすめ、襲の色目コーデ。

2019年春夏のトレンドカラーは、ペールカラーなのだそうです。
パステルカラーよりも淡くはかなげな色調です。
「襲の色目」には、そんな今夏のトレンドにも合う組み合わせがあります。
例えば、春の紅梅匂、夏の破菖蒲、秋の小栗色などです。

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東京オリンピックのテーマカラーにも採用されている「襲の色目」。
いにしえの美しい色彩と装いに対する美意識の奥深さを知って、この夏のコーディネートやメイクを自分らしく楽しんでみませんか?

 

《梶 和佳 さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/angelwaka/?c=13040

 

(トップ画像/季節も想いも表現する色。 )