アムロ・レイ
『機動戦士ガンダム』という古い作品があります。
若い世代の方はご存じないかもしれませんが、僕の中では世界的に有名なロボットアニメの金字塔だと思っています。
ちなみに主人公はアムロ・レイという少年です。
それはそうと、こんな有名なセリフがあります。
アムロ「なっ、殴ったね!」
ブライト「殴ってなぜ悪いか! 貴様はいい。そうして喚いていれば気分も晴れるんだからな!」
アムロ「ぼ、ぼくがそんなに安っぽい人間ですか!」
アムロ「二度もぶった! 親父にもぶたれたことないのに!」
ブライト「それが甘ったれなんだ! 殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
真面目なシーンなのですが、現代では完全にネタにされています。
僕も個人的にネタとして大好きです。
じわじわ来るこの感覚が何とも言えません。
軟弱な主人公?
ガンダムがテレビ放映されたのは1979年。はるか昔です。
当時、僕は赤ちゃんだったので、当然記憶にないのですが、何度も再放送されていたので、一応は記憶に残っています。
当時は何とも思っていなかったのですが、よくよく考えると深いんですよね。
これって、どういうことかっていうと、主人公が父親に叱られたこともなく、軟弱だ……ということですよね。
僕の父はものすごく怖い人でした。
父を悪人とは思わないですが、当時の父親って怖い存在だったと思うんですね。うちは、特に怖かった気がしますが(苦笑)。
父親だから無条件で偉い……なんてことは当然ないんですけど、父親っていうのは叱ってくれる人だったんですよ。
もちろん、母親がその役割を買って出てくれても問題ありません。
なので、リアルタイムで見ていた人たちからすると、アムロっていう人は主人公なのに軟弱なキャラに映ってしまうんですね。
だから、おもしろく感じるのかもしれません。
ブライトさんという人は、アムロの身内ではありません。でも、アムロを叱ってくれる人なんですよ。
これは、アニメの話ですけど。
叱られたことのある子供たち世代
昔、特に昭和っていうのは他人の子であっても地域の人だったり、目上の人っていうのは、間違ったことをしていたら、ちゃんと叱ってくれたんですよ。
別に、大人がすべて正しいなんて言うつもりはないですよ。単にむしゃくしゃしてたからキレてただけの大人だってたくさんいたと思うし、年上は偉いと思い込んでいて威張っていただけの人もたくさんいたと思います。
でもね、それはそれとして、間違ったことをしていたら、厳しいと思われてもきちんと教えてくれようとして、叱ってくれていたんですよ。
もしかしたら大人が間違っているかもしれない。でも、大人も子供も、そんなやり取りをしながらお互いに成長していったんですよね。
叱ったことがある人ならわかると思うんですけど「この叱り方で、本当に良かったのかな……」と考えたり、「後で、フォロー入れてあげよう……」とか考えたり。
子供は子供で「なんだよ、年上だからって偉そうに!」なんて思ったり、反抗したりするわけですが、時間をかけて、ゆっくりと「あの時は、腹が立ったけど、ちゃんと意味があって叱ってくれたんだな……」って理解できることも多かったんですよ。
時間がたっても納得がいかないこともありますが、それはそれで反面教師として学んできたんですね。
度が過ぎた叱り方をする人や理不尽な人は好きではないけど、叱ってくれる人が身近にいたということは、今考えるとありがたいなって思ったりもします。
叱られたことのない子供たち世代
今の子って、あまり叱られないですよね。感情むき出しでスーパーで小さな子に乱暴な言葉で怒鳴りつけているだけのガラの悪そうなお母さんなら、時々見かけますが。
叱るのは良いけど、もうちょっと言葉をきちんと使おうよって感じです。子供を真っ当に育てたいと思って叱っているなら。
現代って、昔と違って、環境がだいぶ変わってきました。
社会的背景を考えると、コミュニケーション方法が徐々に変わって来ても仕方がないとは思います。
ただ、叱ってくれる大人が減りすぎると、ちょっとそれはそれで寂しい気もするんですね。僕が古いタイプの人間だからそのように思うだけかもしれないんですけど。
たとえば近所で子供たちが問題行動をしていても、注意しづらいんですよね、今の時代って。
自分の子じゃない子供に気軽に声をかけちゃいけない風潮もあるし。
今って学校の先生も、昔ほど、叱らないですよね。というか、今の大人って叱るということをタブー視しすぎる傾向があって僕はちょっと心配なんです。
「恐怖で、相手の行動を制御したところで、それは根本的な解決にはならないと思うんですよね……」とか、理屈をこねてくる人が増えすぎたというか。
じゃあ、逆に聞きますが、一から十まで、あらゆることを説明して、相手が理解して納得して、受け入れてくれるまで根気強く待たなければ人間は学べないんですか、と。
赤信号を渡っちゃいけないんです。いくら説明しても、ヘラヘラしながら「え? なんで? 意味わかんないんだけど?」とかいって、赤信号を平気でわたってしまう子が増えてしまったらどうするんですか。事故になりますよ。迷惑極まりないですよ。最悪命を失いますよ。
そんな時代になってしまったのは、なんちゃって心理学が流行ってしまった影響もあると思います。
共感的理解も、傾聴も、個性の尊重も大事ですよ。でも、間違ってることは間違ってるとしっかり教えてあげなきゃいけないと思うんですね。
理屈云々だけで、相手が理解してくれるとは限らないし。また、子供は子供で、建前としては何かすれば注意してくるけど、声を荒げてくることも、殴ってくることもないってわかってるんですよね。言うこと聞くわけないじゃないですか、それで。挑発して大人をからかいたくなったりすることもあると思いますよ。
反抗的な子も、何かしら背景があるのは誰だって知ってますよ。子供だってストレスはわかりますから。でも、「ストレスも多そうだし、仕方ないよね……」でなんでも許していいはずないですよね。他人を傷つけたり、著しく迷惑をかけても許されてしまったら、とんでもないことになりませんか。
著しい問題行動を起こしても誰も叱ってくれなかったら、周囲の人たちだって、影響を受けますよね。
「あ、何をしても叱られることはないんだな。何か言われたら、なんでアイツはよくてオレはダメなんだよ、とでも言えば、言い返せないだろう……」って思いますよね。
脳に問題があるとか、何らかの病気や障害があるというなら、話は少し違いますが、そうではないなら、なんでもかんでも許してしまうのは問題なんです。
相手は本当はこちらの意図を分かっていても、理解できていないフリをしていたり、感情がコントロールできていないだけかもしれません。
じゃあ、それが許されるか。許されませんよね。
「ムシャクシャしてたから、人を殴りました」といって、許される人が何処にいるんですか。大人だろうと、子供だろうと、ダメなものってダメなんですよ。
暴力をふるおうとしている子を力づくで制したら抑制ですか、拘束ですか。触れたらセクハラですか。大きな声で注意したら虐待ですか。
明らかに誰かに被害が及びそうなら止めた方がよくありませんか。
甘やかされて、叱られずに育ってきた子がどうなるか、少しは考えてみてください。
「最近の若い人は、理屈ばかりこねて、言うこと全く聞かないよな。仕事も指示を出しても、納得いかないとか、気に入らないとか、そんな契約した覚えはないとか言って、まったく働いてくれないし。ちょっと叱れば、パワハラだなんだと……」
社会人の方でしたら、もしかしたら若手社員に対して、そんなふうに思ったことはありませんか。実際困りませんか。
それじゃ、仕事になりませんよね。でも、簡単に解雇もできないんですよ。
年功序列が正しいとか権力に従えとかいうことではなく、理屈云々ではなく、「そういうものだ」という感覚もある程度は大事だと思うんですよね。もちろん、疑問を持つことは大事ですが。従順すぎると、間違ったまま何の疑問も持たずに自滅したりしますから。
「そういうもの」というのは、諦めとか、妥協ということじゃなくて、空気を読むことでもあるんですよ。空気を読まずに思ったことを言ったら、世の中生きていけませんよね。「そういうもの」であることを受容しつつ、その先にどう進みたいかを考え、空気の流れを変え、コミュニケーションを円滑にしていく。それが大事なんですよ。
世の中、大きな声で叱ってはダメとか、押さえつけてはダメとか、自分の子以外に叱ってはダメとか、暗黙の変なルールがありますが、そうじゃないと僕は思うんです。
叱るって、難しいんです。気分も悪いんです。でも相手のために叱ってあげるのは優しさなんです。
叱られることも気分が悪いです。
でも叱ってくれるから成長できることもたくさんあるんです。
恐怖だけで、人間をコントロールしようと思うのは違います。
でも、世の中の秩序とか、バランスとかって大事なんです。指揮系統もある程度は大事なんです。
みんながみんな、叱られないのをいいことに、理屈をこねているだけでは社会はよくならないんです。人は人によって磨かれる。ぶつかったり、納得いかなかったりすることを経験しながらコミュニケーション能力を高めて行くんです。
みんなが、穏やかで争いがなく、声を荒げることもない世の中。
当然、僕もその方が良いですよ。でも、人間って、失敗する生き物なんです。間違いも多いし、悪いこともするんです。
それを全部、無条件で「いいよ、いいよ」って許しちゃうのは違うんです。シメるところはバシッと。そして、気を抜いても許されるときは、ぐったりと。
そのメリハリを理屈だけではなく、身体で覚えて損はないと思う昭和おじさんの気持ちでした。
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