磐座に促され進む先は開け、ごうごうと流れ落ちる滝の音が響き渡る。
「すごい……。」
想像以上の流れに圧倒される。あまり有名ではないこの滝をもっと小さな滝だと想像していたからだ。
先ほどより歩みを早めて滝に近づく。
交差するかのように流れ落ちる滝は、今まで交わる事の無かったそれぞの人生が交わった瞬間のように見えた。
滝を眺めながら進むと、おみくじを結んだ形の木の案内看板に「結び橋・聖滝」、幅の狭い木の板を並べた簡易の橋が岩と岩との間に2か所かかり、滑って落ちてしまうのではないかとドキドキしながら渡る。
「これはつり橋効果もあるかもしれないわ~。」
吊り橋を渡るドキドキを恋のトキメキと勘違いする吊り橋効果。意中の相手がいるのなら、ここへと一緒に行き、吊り橋効果と縁結びパワーで成就率が上がるかもしれない。
神婚の地・聖滝
聖滝が見えてきた。
流れが先ほどの小ぶりの滝のように交差するのではなく、川から滝へと変わる手前で岩に遮られ、二つに分かれ、再び合流して流れ落ちる。
あたかも別の生で共にあった命が死という別れを迎え、再び生を受けて邂逅するかのようだった。
「ここで瓊瓊杵神と木花咲耶姫神の結婚の儀が行われたのか……。」
なんと婚儀に相応しい場所なのだろう。
倭国と青垣山の原とそれまで交わる事の無かった二柱の神が出逢い、永遠を誓う。瓊瓊杵神と木花咲耶姫神が遠い昔、2人を別つ時に再び出逢う事を約束し、その約束を果たして今に繋がる命の流れを聖滝という形で目の当たりにしているかのようだった。
きっと、その婚儀を見つめる磐長姫神は喜ばしくもあり、誇らしくもあったことだろう。
その思いが聖滝に残る記憶とリンクしたのか、滝の飛沫をスクリーンにして婚儀の様子が視えた。
若く初々しい二柱の神と、慈愛に満ちた瞳で天之御影神と共に見守る磐長姫神の姿が。
しばしその婚儀を時を忘れて視ていたが、額に大粒の雪が当たり、夢から目覚めるように今の風景が目に映る。
「雪……。」
掌を上に向けて雪を受け止めると、それは雪の結晶が重なったものだった。
駐車場へと到着した時よりも気温が下がったらしい。これから降る雪は深く積もりそうだ。
聖滝に向かって一礼し後にする。
元来た道を引き返しながら見る聖滝の流れは、分かれその先でまた一つになるものもあれば、交差してから再び一つになるものもある。聖滝に向かって行きながら見る流れと、聖滝を後にして見る流れでは見方が変わって面白い。
「二柱が出逢い生まれた命は行く筋にも分かれ、再び縁に結ばれ一つになりながら大きな流れになっていくんだな。」
そんな二柱を温かく見守った磐長姫神が醜い訳がない。
その美しい心根は今も人々の中に生きている。
命は短くなっても、その清く優しい心根は長く人々に受け継がれる。
永遠なる命よりもとても大切で輝かしい想いとなって……。
終
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