伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第11話~若狐眷族と老狐眷族が語る真実と歴史の謎解き……

人間の歴史は権力者に都合良く書き換えられる……。真実と歴史の謎解きは眷族たちにとって面白いゲームのようなもの。

 

「たった今『あるじ』からの伝言、お伝えします。」

小野照崎神社の『あるじ』とは祀られている小野篁だ。祭神からの伝言とあって観衆の狐達や甚六とグラウも静かに小野照崎神社の狐に心を向けた。小野照崎神社の狐が伝える内容は瞬時に皆に伝わる。

「平安時代。唐帰りの学者達は京の都に点在していた星と六つ角の紋のある祠を、勝手な憶測で六の角=第六、星=天、祠=神と称した。存命中の篁様は抗議したが聞き入れられずと。【星神社】、【星宮神社】も元は同じ星だけが記された祠であったのを学者たちが憶測で祭神が何の神であるか『鑑定』した。後に第六天神を仏教の魔神とした本当の由緒は一部の星宮神社に残る天の悪神『あまつほしかみ』別名『天香香背男』の伝えによる。このように『星の祠』の祭り替えられた祭神は明治維新の件だけではない。」

……第六天神社のことだ。命名の犯人は古(いにしえ)の平安京にいたということか。

そこに集う眷族達は目を輝かせた。真実と歴史の謎解きは眷族たちにとって面白いゲームだ。なぜならいつの時代も人間の歴史は権力者に都合良く書き換えられて伝えられるのが常なので、書物に書かれている歴史を眷族は信用していない。グラウの依り代の引っ越しの話から始まった雑談が点が線でつながり、ここに集う全員が第六天神社の謎で繋がっているような気になる。

 

星の刻印……再び過去の時間の旅へ

「グラウさん。さっきのヤマトタケルさまが建てた祠に」
「星があるか見にいくか」

若い狐の促しに狼も乗り気で答える。甚六はまた皆に菓子を配っている。小野照崎神社の狐が『あるじ』から土産に持たされた菓子だ。
「篁様は『星』と『六つ角の紋』と申されたのだ。星と六芒星は違うのか?」
菓子を配り終えた甚六が待ったをかける。

「思い出した。昔、この国で星をあらわす形はただの丸だった。だから六芒星は星と理解されずに第六の意味に誤解された可能性がある。ちゃんと確かめるさ。」

グラウは再び銀色の光を帯び、観衆の意識に自分が潜ってゆく過去の時間のビジョンを投影しだす。小野照崎神社の狐も一緒だ。甚六はその側で狼と観衆を守るように銀色の光を纏う。見えてきた光景は光の奔流のように皆の意識に突入してきた。

光の奔流

 

時間は必要とする情報にアクセスするよう遡り、
ハイスピードで現在に向かう。

人々が踊りあう時間の中、二人の礼装の皇子が石に線を刻み星を彫る。およそ1900年の過去、場所は今の甚六の居る祠の南東。穏やかな内海のきらめきにそそぐ川の近く、僅かな乾いた丘には集落に人が暮らす。その中央に小さいが大切に守られた祠が、かつて双子の皇子が建てた祠だ。ビジョンは急速にズームしてゆくと石組の扉の無い厨子のような造型の正面に刻まれた形は、六芒星。その周囲に丸が7つ、北斗七星の形に刻まれている。大気汚染など無く、降るような星空だった昔、誰もがその配置から丸が北天に輝く星をあらわすことは理解できよう。

時代は変る。衣食に足りる環境は長く人の集落が保たれた。祠は崩れる事も火山の灰に埋もれる事も、木材で建て直されもしてゆく。ある風雨の晩、木造の船が祠の向こうの川で沈む。船には当時の先進国百済からの仏像も載せられていた。大陸から正式に仏教が迎え入れられるにあたり、神道を擁護する勢力の攻撃を避けて東国に海路来た船だ。乗員達は昔高句麗の難民が移り住んだ内陸の里へ身を隠した。この川は祠が川辺にあるから宮の川と呼ばれているが後の宮戸川、現代の隅田川の事だ。事故後、地元の漁師の網にかかったのがその船の積荷だった小さな仏像で、後に寺を建て祀られる。

 

時代の変化……祠の記しにも変化が

この時代には双子の皇子が建てた祠は川の氾濫や風雨により形も材質も場所も本来の物や位置では無くなっているが、地元の人々により直され続け、星形も星座も記された。
時は変わり、平安京に都が落ち着いた時代に赴任先からの旅の道すがら、この辺りの景色に心癒された役人が小野篁、後にこの景色の見える照崎の地に祀られた。以降も祠は何度も壊れ、再建されるうちに六つ角の形は残るが、星を表す丸は記されなくなっていた。

その後、当時流行りの妙見菩薩を頼りとする若武者がこの地を旅の帰路に訪れる。本人は知らぬ事だが、若武者は双子の皇子のラアムと呼ばれていた者の魂を持つ。
彼は30人程の従者と共にいた。女も男もいる。最前列の若武者の側の女たちは尖った花弁が5つある花の柄の着物姿だ。