伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第10話~先輩眷族が語る、『人間の罪と罰』。対する眷族からの警告とは?

所は現代の東京。下町の片隅を舞台に、狼眷族『グラウ』と狐眷族の『甚六』が織り成す、面白おかしな物語……。古くから人間が何気なく起こす行動に、眷族達からの警告は発せられているのです。

 

「ヤマトタケルさまが創建されたと伝えられる第六天神社は、先祖が仕掛けた東国の地への呪いを、住民のために封じる秘儀をしてくれた跡なんですね。そんな歴史のある街に居ることが出来て光栄だなぁ。」
痩せた狐は懸命に言葉を繋いで神社の起源を理解した旨を甚六に伝えた。稲荷眷族は受け答えにきちんとした礼節というか形式がある。立場や身分に関係なく、質問→答え→理解と感想が礼代わり、だ。

観衆の狐たちが銘々に質問したくて騒ぎだしたので、甚六はグラウを休ませる時間を稼ぎがてら、気楽な部類の質問に答える事にした。

 

狐語り……『人間の罪と罰』狐眷族が伝える礼節とは

「人間に家相とか建物相があるなら祠にも吉相がありますかぁ。うちの祠は会社の駐車場の道端側にあって、地面に直に置かれている40センチ四方の『コンクリ枠』なんです。よく蹴られるし酔っ払いにジャーって失礼なことされた事も多々あります。」

近隣でも働き者と評判の小柄な狐が『壮大な話の後なのに申し訳ない』という表情で質問する。すると甚六は質問の答えはせずに人間が電話をかける仕草をした。
「もしもしぃ蝉(セミ)部長さんですかぁ、六丁目の祠に失礼な事した奴ら全員にセミ部下さん達がジョーっとやるようご指示お願いします。はい。」

セミの精霊に手配を依頼。小柄な狐の祠に失礼な事をした輩は、界隈のセミたちにおしっこをかけられる事になった。

「路地の行き止まりや個人の庭にあった稲荷の祠は、町の開発に取り残されて妙な場所に追いやられもする。建物の相よりも単純に立地条件の問題だ。それでも、しゃがみこんで丁寧に挨拶してゆく人もいる祠だ。汚されても、雨でも降れば洗われる。誇りを持ってお役目に精進しよう。」

甚六に励まされ小柄な狐は一瞬金色の扇のように尾を広げる。これは尾が複数ある霊狐の、言葉を使わぬ礼の述べ方だ。小柄な狐の尾は3つあった。皆、普段は尾が1つの黄色い狐の姿だから、霊毛の色や尾の数など正体を見せるのは最大の信頼を意味する。

「神様は罰を与え無いんですか?うちの神様の社にも、酔ってそういう事する人間がいるんですけど。」若い狐が追って質問する。

「神様は人間に罰なんて与えない。小さな事は気になさらない。罰を与えるのは我々眷族の仕事だ。」
甚六は質問にも答えるより先にまた「もしもし」とやりだした。何だか楽しそうだ。

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「はぁい。鳩係長さんですね。国際通りのおやしろにいろんな事しでかす酔っ払いに部下鳩さんたちが昼間にポトンするようにお願いします。肩とかでなく頭にお願いします。」

言い終えると甚六は真顔で若い狐に答える。
「我々眷族が精進してお使いの役目をこなせば、どんなに小さな祠でも神威に守られて人や生き物が汚すことはしなくなる。まぁさっきの駐車場の祠や今の質問のやしろは場所柄仕方ない面もあるが、気に入らぬことをされたことに気持ちを向けるのじゃあなく、祈る人の気持ちや町の賑わいを喜ぶおおらかさが稲荷狐には必要だ。そなたの神社は飲食業の人達が心を込めて維持してきた。酔っ払いが多いのは飲食店が繁盛している証しだな。お客様が日頃の疲れを酔いで解消するのも良い事だし、体が無事に機能してるから、いっぱい飲めばいっぱい出るモノも出るのだろう。もっと街中の店が繁盛して、儲けで街中に豪華なレストルームが造られるようにしてやる位に前向きに捉えるのがいい。」

「はい。何事も良い事象として見て、感謝して働きます。」
若い狐は瞬間キラキラ輝いた。境地境涯が上がったのだ。