縁結びの神様はなぜ醜いのか?

八木龍平

社会心理学者の八木龍平です。今回のテーマは「縁結びの神様はなぜ醜いのか?」です。縁結びで有名な神様は、容姿が醜いと評されています。私がそんなことを言っているんじゃないですよ! 神話にそう書いてあるのです。

例えば京都の貴船神社・結社に祀られる縁結びの女神イワナガヒメは「甚凶醜」(いとみにくき)と評されています。意味は「不吉なほどおそろしく醜い」。
島根の出雲大社に祀られる縁結びの男神オオクニヌシは「葦原醜男」(あしはらのしこお)と評されています。意味は「日本国(“現実の地上世界”を指す)の醜い男」

なんとひどい書き方でしょうか! これでも国家が編纂(編集)した正式な歴史書の記述ですが、現代なら確実に炎上するでしょう。ただ現代とは価値観が違うとはいえ、どちらの神様も代表的な縁結びの神様です。なぜ縁結びの神様たちは、容姿がよくないとされたのでしょうか? そして縁結びの神様たちは、どんな恋愛をしたのでしょうか?

実は日本の神様にはひとつの法則があります。それは「神様自身が挫折や失敗をしたことが、神様のご利益になる」という法則です。ご利益とはご神徳。神様のお役目です。例えば戦いに負けた神様のご利益は、戦勝祈願になります。神話でボロボロに負けた神様が、なぜか軍神になって、名だたる戦国武将が篤く信仰しているのです(例:諏訪大社のご祭神タケミナカタ)。
同様に、恋愛で苦労や悲しい思いをした神様こそ、人々の縁結びを応援するご利益をもたらします。

女神イワナガヒメの場合、天照大神の孫で天皇家の祖先となる男神ニニギノミコトと結婚しようとします。恋愛結婚ではなく、イワナガヒメの父神オオヤマツミのすすめです。ところがニニギノミコトは、容姿が醜いからと、イワナガヒメを送り返します。物事が永遠に続く力をお持ちのイワナガヒメと結婚しなかったニニギノミコトは、結果、子孫の寿命が短くなったとされます。

一方、結婚を断られたイワナガヒメがどうなったか、古事記や日本書紀には語られません。しかし後世の神話では、送り返されたことを恥じて、「我長くここにありて縁結びの神として世のため人のために良縁を得させん」と京都の貴船神社に鎮まったとされます。その地は平安時代から有名な縁結びの聖地「結社」(ゆいのやしろ)となりました。イワナガヒメが縁結びの神様になったのは、容姿が醜いとの理由で、結婚できなかったからなのです。

八木龍平
(貴船神社・結社)


日本の神様は、挫折して悲しい気持ちや悔しい思いをした後、後世の人が自分と同じことで苦しまないようにと神様になります。人間でいえば、子供時代に病に苦しんだ人が、大人になって同じ病に苦しむ人を救いたいと医者になるようなもの。ご自身が経験した苦しみを、他の人に味あわせないぞと決意した気持ちや志が、神様が備えるご利益(ご神徳)の本質です。

では、葦原醜男と呼ばれた男神オオクニヌシは、どうでしょうか。縁結びの聖地で有名な出雲大社の神様です。多くの女神と愛を交わし、妻は6柱(神様を数えるときは柱)、子は180柱か181柱とされます。国づくりに成功して国王となった神様らしく、プレイボーイですね。モテてます(笑)。

ただオオクニヌシの恋愛も、浮かれた話ばかりではありません。自身の国を天照大神の孫神にゆずられた後、天照大神陣営でもっと力のある神様タカミムスビからこう言われます。
「もしお前が地元(出雲)の女神を妻としているなら、まだお前は心を許していないだろう。私の娘ミホツヒメを妻とし、神々を率いて永遠に天照大神の孫神を護られよ」

オオクニヌシさまの恋愛は最後、6柱の妻と離婚させられ、敵方陣営の女神と政略結婚させられて終了です。いくらモテても、結末はかなり残念でした。

出雲大社の御本殿内の配置は、元々の正妻とされた女神スセリヒメに、オオクニヌシはお尻を向けて、そのお顔は別の妻で、数々の有名神社に祀られる宗像3女神の長女タギリヒメを向いています。しかしオオクニヌシがお顔を向ける妻タギリヒメはそっぽを向いています(横顔だけ見せているとも言える)。また最後に政略結婚した女神ミホツヒメは出雲大社におらず、島根半島の東にある松江市の美保神社に祀られ、なぜかオオクニヌシの息子コトシロヌシと一緒です。複雑怪奇な男女関係ですね。

そんな複雑な婚姻関係の中で、オオクニヌシは最後、あの世(死後の世界)の神様となります。あの世の神様になる神様は、神様なのに死んだと推測されます。何があったのかはっきりとは記されていませんが、きっとその結婚は悲しく苦しいもので、だからこそオオクニヌシのご利益は、幸せな縁結びになったのでしょう。同じく離婚させられたオオクニヌシの妻である女神達も、しんどい思いをしたことは容易に想像できます。

最後に「醜い」は容姿のことではなく、「見えにくい」だとする解釈もあります。イワナガヒメは永遠に続く力をもつ神様、オオクニヌシは死後の世界という見えない領域の神様です。どちらもその働きは「見えにくい」。縁結びも「見えにくい力」が働くと考えるのです。神道に正解はありませんので、こんな解釈もあると捉えてください。

八木龍平
(出雲大社・神楽殿)




(トップ画像/出雲大社・二の鳥居)


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