ここまでのストーリーは前編をご覧下さい。
~重なる2つの時代の私~
この戦が繰り広げられた場所に建つ家に引っ越すために、掃除をしている私。
この時の私は、約135年前自分がここで死んでいる事など知りもしない。
家族との関係がもともと良くなかった私は、家の問題で両親や親戚が揉めていた時、ストレスから突発性難聴になってしまう。
他にも様々な症状を抱えていたので、自分の身体に限界を感じ、1人で静養しながら仕事を出来る家を探し、この場所へ引っ越す事になった。
その家は、ピアノを教えながらピアニストとしても活動していた私にとって、とても条件の良い家だった。
車を5台程止める事が出来、町の中なのに隣接している家がないので、24時間練習が出来ると言っても良い位の、緑に囲まれた静かな場所だった。
だが、3年間程閉め切り放置された家には、人ではないものが沢山棲み付き、私が行くのを嫌がり追い出そうとしていた。
私は家に光と風を入れ、半月程かけ自分の手で愛情込めて掃除していた。
ようやく荷物が運び込める所まで、綺麗になった頃と思われる。
私はその時、疲れた手を休め窓際に腰かけていた。
2階の窓からよく見える雷神山の方を眺め
「私はこの家で暮らしていけるのだろうか……」
「この家と馴染む事は出来るのだろうか……」
何となく居心地が悪く、居場所がない感覚のこの家が、本当に自分の家になるのか想像がつかず、不安を感じていた。
そんな事を考えながら、ぼんやり外を見ている私の背後で何か動く気配がある。
部屋の入り口で、私をじっと見つめる者がいた。
過去の武士の私だった。
武士の私は、私の背中を真剣な目でじっと見つめ、それが自分であると気付いたのか気付いていないのか、すっと静かに近付いて行き、武士の私は私と一体となった。
その時の私は気付いていなかったが、その日から過去の自分と共に生きる事になる。
~癒されていない過去の自分と共に生きる~
そこから私は、その場所で死んだ自分の前世の武士と共に生きる事となる。
この武士は一般的に言えば「お化け」であり、詳しく分類すると想念の塊のようなものと言えば良いだろうか。
私と共に生きる事は、一般的に言えば「憑依」となるが、私を不幸にしようと思って憑いたのではなく、同じ気持ちが分かる仲間だからくっついてしまった感覚だ。
戦で亡くなった魂達は、余程の未練がない限りほぼ成仏する。
だが、強い感情の一部がそのまま残されてお化けとなり、そこに居続ける事が多くある。
過去の武士の私は、まだ苦しみに囚われて、辛い気持ちが癒されずにずっとそこに居たのだった。