一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.299「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」

スプリングスティーン
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スプリングスティーンのトラウマと苦悩

初めて知る彼の魂の救済を描く秀作!!

ラスト、泣きました。試写の帰りのエレベーターの中でもうっと涙がこみ上げてきて、たくさんの人の中で泣いていました。

久々に胸にこみ上げる感情が抑えられない作品だった。ブルース・スプリングスティーン。アメリカを代表するシンガーソングライターでロック歌手。

社会的な事件などを詩に落とし込むアーティストだと認識していたが、そんなに彼の生い立ちなど詳しいわけではなかった。それが今作ではブルースの前面協力のもと、ほぼ彼のプロフィールと極私的アルバム「ネブラスカ」制作時の実際のエピソード、父親との関係という内面的なことまで赤裸々に描いているのだ。

驚いた。彼にこんなトラウマがあるとは知らなかった。しかも、そのトラウマに今も苦しめられているとは……。しかし、だからこそ、彼は素晴らしい曲を次々と発表し、今も不動の地位を保つミュージシャンであるのだと、改めて思った。

父親との確執は今もブルースを

苦しめ、人生を足止めする

1982年.ブルースはアルバムが売れて人気も出てきて次のアルバムを作るためにニュージャージーの実家近くの閑静な場所に家を借りる。そこで思い出すのは、幼少時のこと。酒に依存する父親をバーに迎えに行くのがブルースの日課だった。

父親は酒が入るとブルースにボクシングの練習だと言ってパンチをださせ、暴力をふるった。母親は絶叫し止めるが、父親と母親の口論は毎夜続いた。なにかにつけその父親との思い出が胸をよぎる。彼は一人部屋に籠りその思い出を詩に書きはじめ、曲を作り始める。録音機と自分一人だけで。マネージャーのジョンはそんなブルースを心配するが常に寄り添う。そして、知り合ったフェイという恋人との仲も次第にうまくいかなくなり……。

スプリングスティーン


アダルト・チルドレンであるブルース

現代人はほとんどが迷える子供なのだ

モノクロで語られる回想シーンが詩的に美しく、同時に不穏で悲しみに満ちている。ブルースは父親に対して成長してからも深い愛憎があり、それは彼を永遠に苦しめる。それが噴出したのが「ネブラスカ」の制作時だ。彼はこのアルバムで父親への思いを表出する。そして、完成後父親と向きあい、父を受け入れることができた。ように映画では描かれる。しかし、ブルースはいまも鬱と闘っているという。

ブルース・スプリングスティーンはアダルト・チルドレンであり、この父親との関係は今も癒されていない。幼少期のトラウマを癒すには、トラウマの原因と向きあい対話を重ね受け入れることが過程なのだが、大抵の人はそのままにして解消されることは難しい。しかし、問題を放置すると大人になって必ず生き辛くなるそうだ。現代人はほとんどがアダルト・チルドレンだとも言われる。今は誰もが苦悩を抱えうまく生きられない時代だ。

スプリングスティーン


ジェレミー・アレン・ホワイト超注目!

体現するブルースの悲しみと諦めに涙

もう一つ驚いたことがある。ブルースを演じるジェレミー・アレン・ホワイトの演技と目線と佇まいだ。ブルースそっくりの顔と声。劇中の歌も全て吹き替えなしで歌ってギターも演奏している(5ヶ月の特訓で)。そして、その空虚で悲しみと諦めに満ちた目。こちらは目が離せない。いつまでも見ていたいフォトジェニックな魅力があるし、何より傷ついた佇まいが痛々しくて側に飛んでいって抱きしめたくなる。こんなに傷ついた人間を演じられる巧さ。今後注目の俳優です! 

さて、ラスト私が泣けたのは、ブルースがそれでも、歌を作り続けて生きて行こう、という決意が見えたからだ。ラストに父親がブルースに「膝に乗れ」と言う。大の大人である息子に膝に乗れ、という父親。ブルースは成長した大人ではなくて、今も6歳の少年なのだ。誰しも心の中に6歳の子供がいる。その傷ついた子供を放置しないで。泣けたのは、本当は私の中の少女が涙したのかもしれない。

監督・脚本 スコット・クーパー

原作 ウォーレン・ゼインズ

出演 ジェレミー・アレン・ホワイト ジェレミー・ストロング ポール・ウォルター・ハウザー

スティーヴン・グレアム オデッサ・ヤング ギャビー・ホフマン マーク・マロン

※120分


©2025 20th Century Studios

※11月14日(金)から全国ロードショー







  

  

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