一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.298「愚か者の身分」

愚か者の身分
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日本の社会の暗部、闇バイトのリアル

ハラハラドキドキの逃走劇のリアルと痛快!

闇ビジネスから抜け出そうとする3人の若者。今の日本の現状を映し出すとともに、再生と希望を描いて心に残る秀作である。新宿・歌舞伎町で戸籍売買の闇バイトで日銭を稼ぐ兄貴分のタクヤと彼に絶大の信頼を寄せる弟分のマモル。マモルはタクヤに拾われてふたりはタッグを組んで仕事をこなし、どこへ行くのも一緒という仲の良さだった。

しかし、タクヤはいつか組織を抜け出して堅気の生活をしたいと密かに思いある計画を練っていた。何も知らないマモルはある日、突然上役から「今日はタクヤに会うな」と言われる。タクヤは数日前に兄貴分の梶谷に相談していたのだが、計画は露見し……。

愚か者の身分


3人の男たちの一種のラブ・ストーリー

とも見えるクライム・サスペンス

闇バイトって詳しくなかったのだが、本作でタクヤとマモルの主な仕事は金に困っている身寄りのないカモを見つけて戸籍を売らせるというもの。その手口がリアルで興味深く観た。戸籍を失うことがどういう意味を持つのか、リアルに描写されていて感心した。

その手口の鮮やかさ、ふたりの出会い、組織の幹部のおっとろしさ、エグイ暴力シーン、アクション、逃避行のハラハラドキドキ。スピーディな展開に感情を色濃く描き、タクヤとマモル、タクヤと梶谷のラブ・ストーリーとしても観れる男たちのクライム・サスペンスだ。


愚か者の身分



骨太な演出は女性監督の永田琴の腕

原作も女性という驚き!

むちゃくちゃ面白いこの骨太な快作を撮ったのは女性監督の永田琴。そしてなんと原作の西尾潤も女性というではないか。梶谷が幹部にボコられるアクションシーンなんて、ど迫力で半端ない演出に引いたほど。あるエグイ描写も目を覆ってしまった。

幹部も上役も本物か? と思うほどの凄みがあって、女性とは思えない激しい映画なのだ。いや、それは偏見ですね。女性の方がそういうシーン、実は容赦なくて巧いとも思うし。また、監督、原作のふたりとも大阪出身。脚本の向井康介も徳島出身とテンポの良さと、子ネタのギャグは関西ならではかと納得。

キャストで一番の収穫はマモル役の林裕太だ。そのままリアルなマモルがいた。この俳優は今後注目です! ひとつ、んっ? と思ったのが、梶谷役の綾野剛の風呂での全裸シーンはいらんのでは? と笑ってしまった。ここらあたり、監督が女性だなあ、と納得した次第。

しかし、こういう闇バイトに貧困から簡単に手を出す若者たちが後を断たない現状。一度手を出したら抜け出せないという。この日本の社会の大きな問題を映画で描くということ。私たちは、まずはそのことを知る、ということが大事なんだろう。


監督 永田琴

脚本 向井康介

原作 西尾潤

出演 北村匠海 綾野剛 林裕太 山下美月 矢本悠馬 木南晴夏 田邊和也

嶺豪一 加治将樹 松浦祐也

※130分


©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会

※10月24日(金)から全国ロードショー





  

  

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